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2008年05月17日(土) 07時32分

「痴漢識別に疑問」会社員に無罪 奈良地裁朝日新聞

 電車内で女子高校生(当時17)に痴漢をしたとして県迷惑防止条例違反の罪に問われた橿原市の会社員男性(33)の判決公判が16日、奈良地裁であった。畑口泰成裁判官は、女子高生の証言が変遷し、一部に不自然な点があると指摘し、「被害者の供述だけで犯人とは断定できない」として無罪(求刑罰金50万円)を言い渡した。

 会社員は07年9月21日午前7時25分ごろ、近鉄橿原線の平端駅に停車中の車内で女子高生の尻を触ったとして、現行犯逮捕された。逮捕時から一貫して容疑を否認していた。

 犯行は満員電車内で、第三者の目撃証言も、会社員の手からスカートの繊維片が検出されるなど犯行を裏付ける物証も、なかった。このため公判では、女子高生の証言だけを証拠に会社員が犯人であると断定できるか、その証言の信用性が争点になった。

 畑口裁判官は、女子高校生が会社員の顔を見てから手をつかんだという犯人識別の証言が捜査段階から変遷している点を重視。また、女子高生が男性が右手につけていた指輪に気付かなかったとする点も「やや不自然な印象が否めない」と指摘した。そのうえで「一瞬の犯行で被害者が正確に犯人を識別できたかは疑問が残る。供述に犯人と断定しうる高度な信用性までは認めがたい」と結論づけた。

■「ほっとしている」

 無罪判決を受けた会社員は「ほっとしている」と心境を話し、「逮捕から今まで生きた心地がしなかった。妻と2人の娘が支えてくれなかったら耐えられなかった」と振り返った。

 昨年9月、出勤途中の朝の急行電車。平端駅に停車中、女子高生に突然右手首をつかまれ、「触りましたよね」と問いつめられた。否定したが、押し問答となり、周囲の男性客らに次の郡山駅で降ろされ、駅前交番に連れて行かれた。一貫して否認したが、そのまま現行犯逮捕された。取り調べでは捜査員から「お前がやったんやろ」と一方的に言われ続けた。

 だが、妻からは「とにかく信じている。頑張って」と励まされ、会社の上司や同僚も無罪を信じて解雇などの処分はせずに応援してくれたという。

 弁護人の馬場智巌弁護士は「否認を続け無罪を主張すると『反省の色がない』と思われがちだが、今回の判決はこちらの主張をわかってもらえた。正当な判決だ」と喜んだ。

 一方、奈良地検の野島光博次席検事は「予想外の判決に驚いている。判決内容を十分検討し、上級庁とも協議して適切に対応したい」とコメントした。

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