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2008年05月12日(月) 15時01分

レンタル携帯、振り込め詐欺に悪用横行 本人確認に穴朝日新聞

 振り込め詐欺グループが使う携帯電話が、他人名義やプリペイド(料金前払い)式から、レンタルに移っている。07年に約250億円の被害が出た振り込め詐欺で使われた約4千台のうち、約4分の1がレンタルだった。実質的に転売しているケースもあり、法規制の抜け道になっている。

  

振り込め詐欺グループの現金引き出し役の連絡に使われたレンタル携帯電話

レンタル携帯電話の悪用例

 振り込め詐欺は電話で被害者に接触する。このため、電話番号から身元が発覚しないように、転売などで実際の使用者が分からない他人名義やプリペイド式の携帯電話が使われる例が多かった。しかし、電話契約時の本人確認が厳格化され、携帯電話の不正転売の摘発も進んだため、入手しにくくなった。

 代わって増えてきたのがレンタル携帯電話だ。全国の警察では、振り込め詐欺に使われた電話番号の記録から使用者を割り出す作業を続けているが、警察庁によると、05年ごろから振り込め詐欺でレンタルの使用が増え始め、昨年1年間では60の会社や個人の名義の1070台が使われた。このうち、1社で約200台を契約していたレンタル業者や、1人で約30台の名義人となっていた業者社員もいた。

 警視庁が昨年春以降摘発した「キング」と呼ばれる首謀者が統括する大型の振り込め詐欺グループは、レンタル携帯電話約40台を使っていたという。

 05年施行の携帯電話不正利用防止法では、携帯電話会社や販売代理店が利用契約を結ぶ際、運転免許証などでの本人確認や記録の作成・保存を義務づけている。しかし、レンタル業者が貸与する際には名前や法人名、住所、電話番号を確認することを求める規定はあるが、具体的な確認方法まで定めていない。業者が「身分確認をした」と主張すれば、それ以上の責任を追及するのは困難となっている。

 レンタル事業はだれでも開業できるが、1台1万〜数万円で貸し出して回収せず、実質的に転売する業者もある。こうした業者は数十にのぼるという。

 携帯電話のレンタル事業をめぐっては、自民、公明両党のプロジェクトチームが規制を強化する方向で協議を始めている。(勝亦邦夫)

 ■指南書「偽造身分証はファクスで」

 警察が押収した実行グループのマニュアルには捜査や規制を逃れるすべが満載だ。携帯電話を入手する店は「小さくて忙しいところを狙え。偽造した身分証明書は『忘れた』とうそを言い、ファクスで仲間に送らせろ。大抵はOK」と指南する。

 85人から8千万円を詐取したとされるグループは、これに似た手法でレンタル携帯電話約60台を借りた。ファクスで送らせた偽造運転免許証で身元確認をすり抜けた。

 「逮捕されないためには他人名義の携帯電話を使え。使うのは最長でも1カ月、常に新しいものを」と指示するマニュアルもある。被害発生から摘発までに4、5カ月かかる捜査の実態を知っているかのようだ。最近では携帯電話に挿入されているICチップ(SIMカード)が売買され、犯罪に使われる例が目立つが、携帯電話不正利用防止法ではこの取引を取り締まれない。

 振り込め詐欺の被害を苦に自殺した人は、警察が把握しているだけで5人いる。「研究熱心」な敵の横行を阻み、被害拡大を防ぐには法改正のほか2割にも届かない検挙率を上げる策が必要だ。(編集委員・緒方健二) アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0512/TKY200805120163.html