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2008年05月10日(土) 17時12分

青山一等地、「官」まとめ切れず 虫食いのまま売却へ朝日新聞

 地上げの頓挫で長く空き地だった東京・青山通り沿いの一等地が、近く入札にかけられる。独立行政法人・都市再生機構(UR)が5年前に購入し、複雑化した権利関係の整理に乗り出したが買収は一向に進まなかった。結局虫食い状態のまま手放すことになり、官主導で目指した都心の再開発は民間に委ねられることになった。

青山通りに面した虫食い状態の空き地=10日、東京都港区南青山3丁目、本社ヘリから、林敏行撮影

  

 地下鉄表参道駅から徒歩5分の港区南青山3丁目。海外有名ブランド店の向かい側に約3千平方メートルの更地が広がる。URが売りに出す部分はそのうちの約8割、いびつな形の2503平方メートルだ。一部が虫食い状態のうえ、2本の私道も含まれる。私道には2分の1の共有持ち分しかない部分もある。13〜15日に入札を受け付け、16日に開札する。

 かいわいは80年代半ば、都内の大手情報企業系不動産会社が買収に乗り出したころから、都心有数の地上げの激戦地となった。この一帯の約4500平方メートルをまとめきれば100億円規模の利益を生むともいわれた。

 だが、英領ケイマン諸島に本拠を置く不動産会社や暴力団との関係がうわさされる会社などさまざまな業者が群がり権利関係は複雑化。より大きな利益を狙い「出方をうかがい合う膠着(こうちゃく)状態」(不動産関係者)となっていた。

 03年7月、買収の動きが止まっていた大手情報企業系不動産会社の約2600平方メートルをURの前身、都市基盤整備公団が買い取った。「虫食い状態で塩漬けとなった遊休土地の流動化」を旗印に、旧建設省が取り組む「土地有効利用事業」の一環。周辺の土地の権利を買い取って一本化し、ビルなどを建てやすい事業用地にまとめて売り出す計画だった。

 一帯は当時、銀行系不動産会社が約1500平方メートルを所有していた。URは「まずその土地を買い取れる目算があった」という。だが、まもなく、同社は米国の有名投資ファンドの傘下に入り、新たに交渉相手となった米国本社側とのやり取りは難航した。

 ほかも同様だ。ある土地は所有する会社の社長が巨額脱税事件で逮捕され、ある土地は所有権が百分の一単位に次々と分割された。ある土地をめぐっては、取引経緯を国会で質問した野党議員に対する脅迫事件まで発生。「いわく付きの土地」として知名度が上がる中、URの買収はまったく進まなかった。

 URに初めて動きがあったのは昨年7月。投資ファンド系不動産会社との間で、互いの所有地の一部を交換する契約がようやく成立した。後にも先にも成果はこれだけ。再開発にふさわしいまとまった土地にはほど遠いまま入札に踏み切る決断がされた。

 URは「できることには限界があり、これ以上所有してもコストがかかるだけと判断した」と説明。担当者は「できれば落札者側でさらに土地をまとめてほしいという思いはある」とも話す。

 入札予定地付近の公示地価は、都心でのここ2、3年の地価急騰に支えられ購入時の1平方メートル約190万円から約400万円へと倍以上に上がった。落札額は、40億円前後とされるURの購入価格を大きく上回るとの見方もある。

 ある不動産会社営業担当者は「結局URの手には負えなかったが、これだけの一等地、寝かせておくのは惜しい」と注目している。(松川敦志)

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 〈土地有効利用事業〉 バブル崩壊後、土地取引の低迷が深刻だった98年、地上げなどで虫食い状態が続く土地の流動化を目的に始まった。

 バブルの後始末に巨額の税金を注入することに当初から批判があった。個別の土地の取得・販売額は非公表で、事業の透明性に不十分な点も多い。 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0510/TKY200805100106.html