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2008年05月05日(月) 00時00分

ネット業界再編 火は消えず読売新聞

 米マイクロソフト(MS)による米ヤフー買収劇は失敗に終わった。インターネット検索首位を独走する米グーグルに対抗する巨大ネット企業への変身を狙ったMSの戦略は修正を迫られる。

 だが、MSを退けたヤフーも単独での生き残りは困難と見られ、ネット業界再編のうねりは今後も続きそうだ。(ニューヨーク 池松洋、経済部 山本貴徳)

4ドル差で決裂

 「我々は提示額を50億ドル(約5200億円)も引き上げ、最善の努力を尽くしたが、ヤフーの要求額は合理性を欠いた」

 買収断念を発表したMSのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)の声明には、ネット業界の勢力図を塗り替える大型買収を実現できなかった無念さがにじんでいた。

 米メディアによると、両社首脳が3日朝、最後の会談を行ったのは、MSの本社があるシアトル郊外の空港だった。

 「提示額(総額446億ドル、1株あたり31ドル)が低すぎる」と提案を拒否したヤフーに対し、MSは1株あたりの提示額を2ドル引き上げ、33ドルを提示。ヤフーも40ドル以上としてきた要求額を3ドル引き下げて37ドルまで歩み寄ったが、残る4ドルの価格差は埋まらなかった。会談後、バルマーCEOがヤフーのジェリー・ヤンCEOに電話で買収断念を伝えたという。

 MSの買収負担額は1株あたり1ドル引き上げるごとに、約14億ドルずつ増えるとされる。2007年12月期決算で純利益が6億6000万ドルにとどまったヤフーに対し、MSはこれ以上の増額は経営負担が大き過ぎると判断した模様だ。

双方に痛手

 買収交渉の決裂は、MSとヤフー双方に痛手となりそうだ。

 MSはヤフー買収をネット事業強化の「切り札」としたい考えだった。08年1〜3月決算が減益に落ち込んだのは、長く利益の源泉となってきた基本ソフト(OS)事業の収益力に陰りが出てきたためだ。

 成長を維持していくうえで、赤字が続いているネット事業のテコ入れは避けて通れない。ヤフーを買収すれば、電子メール市場で約5割、画面広告で4分の1のシェア(市場占有率)を確保できる。サイトの閲覧者数でもグーグルをしのぐ巨大ネット企業として業界を牛耳れるとの読みだった。

 さらにバルマーCEOらはビル・ゲイツ会長が経営の一線から退く今年7月までにヤフー買収を成し遂げ、経営の求心力を高める狙いもあった。

 一方、ヤフーのヤンCEOは「買収提案は過去のものとなり、すべてのエネルギーを重要な変革に注ぐことが出来る」と経営の独立を勝ち取った喜びを表明した。しかし、ヤフーを取り巻く環境も厳しい。

 MSが買収提案する直前は19ドルだったヤフーの株価は、買収期待を背景にじりじりと上昇。2日の終値は28ドルと約5割も上げている。MSの買収断念で株価が急落すれば、ヤフー経営陣は株主から巨額の賠償を求められかねない。

 ヤフーにしてもネット事業の収益力ではグーグルに大差をつけられている。経営再建には「MSとの統合メリットは大きい」(米証券会社アナリスト)とする見方も強かった。

再買収の観測も

 決裂した今回の買収劇が、米ネット業界再編の新たな呼び水となる可能性もある。

 MSのバルマーCEOは「ヤフーを買収できていれば、当社の戦略は加速できたが、引き続きゴールに進める」と単独でもネット事業の強化は可能との認識を強調した。しかし、世界のネット検索市場シェア(07年12月)はグーグルが62・4%を占め、ヤフー(12・8%)、MS(2・9%)を大きく突き放す。両社とも単独での生き残りは難しいとの見方がくすぶり続けている。

 MSとヤフーの交渉の裏では、「メディア王」と呼ばれるルパート・マードック氏が率いるニューズ・コーポレーションもMSと共同でヤフーの取り込みを狙っているとの観測が流れた。一方、米メディア界の老舗タイム・ワーナーも傘下のAOLを通じてヤフーに触手を伸ばしたとささやかれる。メディア界の大物たちも巻き込み、「勝ち組」を目指す合従連衡が今後も展開されるとみられる。MSにしても、ヤフー株が急落して経営が混乱した場合、再買収に乗り出すといった観測さえ残っている。

ヤンCEO、強い反発

 MSが読み誤ったのは、ヤフーのヤンCEOの感情的な反発だった。自由闊達(かったつ)な社風が多いシリコンバレーの企業は、圧倒的なOSシェアを武器にライバル企業をのみ込んで成長したMSに対する反発心がもともと根強い。

 ネット企業のパイオニアとなったヤフー創業者の一人であるヤンCEOは特に「MS嫌い」で知られていた。今回のMSによる買収提案に対しても、経営の独立を維持するために、多数のネット系企業と提携の可能性を懸命に模索していた。その一環として、ヤフーは4月9日にグーグルとネット広告での試験提携を発表、さらに全面提携も検討しているという。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080507nt0a.htm