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2008年05月04日(日) 01時23分

硫化水素自殺 巻き添えの被害も深刻だ(5月4日付・読売社説)読売新聞

 なぜ、こうも命を軽んずるのだろうか。有毒の硫化水素による自殺が相次いでいる。

 中・高校生もいる。多くは未成年や20代の、まだ若い人たちだ。

 インターネットの、いわゆる自殺サイトが、この連鎖的な現象の誘因になっている。

 手をこまぬいているわけにはいくまい。自殺サイトを社会悪と位置づけ、ネット上から排除していく必要がある。

 見逃せないのは、巻き添えによる二次被害だ。

 我が子を助けようとした母親や父親が死亡したケースもある。同じ団地に住む住民らが、病院で手当てを受けたり避難したりする事態も生じている。

 自殺しようとする当人は、周囲に深刻な被害を及ぼす可能性までは考えないのだろうか。

 異臭を感じたら、まず風上に避難する。そして、速やかに通報するよう、警察や消防は呼びかけている。発生源を突き止めようとする行動は禁物だ。

 警察庁は、硫化水素で自殺に誘う書き込みを「有害情報」に指定した。こうした情報をネット上で見つけたときは、接続業者やサイト管理者に削除を要請するよう全国の警察本部に通達した。

 これも、二次被害の多発を重く見たためだ。

 ネット上には、警察も把握が不可能なほど自殺サイトがあふれている。しかも、情報はコピーされて増殖していく。

 これまでも、自殺に結びつくような書き込みは削除を要請してきたが、応じるのは2割程度という現実もあった。

 「表現の自由」との兼ね合いもあり、強制的に削除することはできない。

 しかし、ネットが無法空間のようになっては、規制強化の声が高まるだけだ。ネット業界の取り組みも問われている。

 それにしても、自殺した人たちには、どんな悩みや動機があったというのか。若いうちほど、やり直しはきくものだ。少し時が過ぎるのを待てば、何でもなかった問題だったかもしれない。

 自殺サイトで一緒に自殺する仲間を募り、集団で自殺するケースも起きている。

 死は取り返しがつかないことなのに、ゲーム感覚のようだ。ネットの怖さでもあるだろう。

 次々と手段を変えながら、流行現象のように若者が自殺する社会は、健全ではない。その背景も社会全体で考える必要がある。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080503-OYT1T00694.htm