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2008年04月28日(月) 21時21分

<聖火リレー>「中華民族主義」が恐ろしい──韓国市民記者の見たソウル聖火リレーオーマイニュース

 長野リレーの翌4月27日、韓国・ソウルで聖火リレーが行われ、拘束者4人、負傷者7人が出た。以下は、韓国オーマイニュースの市民記者(兼編集部のインターン記者)、ソン・ジュミンさんの「ソウル聖火リレー取材後記」の翻訳。韓国人記者が現場で何を感じたか、紹介しよう。(日本語訳:朴哲鉉)

  ◇

 正直、最初はうらやましかった。ひるがえる五星紅旗(中国の国旗)、「中国万歳」の叫び。彼らの自負心が感じられた。数千名に達する留学生らが集まって祖国の国旗を揺さぶりながら手を取り合っている姿は、とても悪く見えなかった。

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 海の彼方、母国で開かれるオリンピックの大事な「聖火リレー」である。異郷暮らしの彼らにとっては、一種の「盛大な祭り」であった。三々五々集まった中国の若者たちは、鳴り響く中国国歌「義勇軍行進曲」とともに笑い、歓喜の声をあげていた。

 だからだろうか。ふと「デーハ、ミンクク(大韓民国)」と叫びまくった2002年、ワールドカップのときの光化門(クァンファムン)の街を思い出した。その時、集まった私たち(韓国人)の服装も真っ赤だった。

 「赤い悪魔」(韓国のサポーター)と類似の中国の赤い波に、今巻きこまれていた。自然と笑いが出た。

 だが、彼らの祭りの雰囲気に魅了され、浮き立っていた感情が消え、理性を取り戻すのに長い時間はかからなかった。

 数千名の中国人留学生たちが道路を占拠して「Pride of China(中国の自負心)」と叫びながら、石とゴミを投げ始めた瞬間、すべてが終わった。「中華民族主義の恐怖」だけが押し寄せてきた。

■留学生たちの特別な自負心… そこまでは良かったのに

 27日は、オリンピック公園(ソウル聖火リレーのスタート地点)で多くの中国人留学生に話を聞いた。会話した人数はおよそ50人。

 韓国語が苦手なせいか、彼らは十中八九、英語で「Pride of China」と言った。参加動機を尋ねると、答えはほとんど「Pride of China」で始まった。ここまでは良かった。

 チベット問題について質問した。すると、

 「国内で起きた、普通に通り過ぎていく地域紛争みたいなもの」(韓国科学技術教育大の留学生)

 「中国が武力を使ったと? いや、それは治安維持のためにやった当たり前なこと」(高麗大語学堂の留学生)

と答え、「私たちは一つ(ONE CHINA)」で締めくくる。

 建国(コングク)大学に通っているある留学生は憤りながら語った。

 「チベット問題は、独立を望む国外の悪い連中が、金をもらって中国内部でにきて行った無法な振舞い。西欧の資本主義国家たちは、社会主義国の中国を弾圧するため、わい曲報道を日常的に繰り返している」

 こういう主張は、韓国語が苦手でうまく整理されていないからだろうと理解に努めた。ところが、聖火リレーが始まるやいなや、「民族のプライド」は「全体主義」に一変した。

■「民族主義」が「全体主義」に変わった瞬間

 午後2時20分頃、聖火リレースタートと同時に事件が起きた。

 夢村土城(モンチョントソン)駅の1番出口付近で米国人のデービッドさんは「Improve Human Right(人権の改善を)」というプラカードを掲げながら、中国人留学生が集まっている場所に歩いていった。

 彼をみた「赤い波」は津波のように彼に駆けつけた。五星紅旗を高らかにあげた留学生30人余りはあっという間にデービッド氏を包囲した。「中国万歳(万世)」、「北京万歳(万世)」を叫びながら、彼が掲げていたプラカードを奪いとった。プラカードは地に転がり、粉々になった。

 デービッド氏は首を横に振って、残念な表情をした。だが、留学生たちの「中国万歳(万世)」は絶えなかった。「私は中国政府が人権問題に対して間違っているという意思表現をしただけ」とデービッド氏は語り、「(こういう反応に)非常に驚いた」と舌を打った。

 中華民族のプライドが「全体主義的な魔女狩り」に本格化したのは、留学生と道路をはさんだ向かい側で、「人権なしではオリンピックもない」と韓国市民団体が声をあげ始めてからだ。聖火リレーの最初の走者がスタートした瞬間だった。

 これを見た中国人留学生は、デモ隊にヤジを浴びせた。さらに憤りを我慢できなくなった一部の学生たちは、警察の防御線を突破し、勝手に道路を占拠して市民団体に圧迫をかけた。

  【動画】ソウルが中国に占領された?!

 あっという間にその場所は、あらゆる暴力が跋扈(ばっこ)する修羅場になってしまった。

 留学生たちはまずペットボトル投げ、続いて旗竿、飲食物を投げ込み、さらに投石行為や金属棒を振り回す事態にまで発展した。韓国側はあたふたと傘を取り出し、それらを防ぐ。最初100人程度だった留学生は増え続け、1000人以上が集まった。100人程度の韓国デモ隊は、赤い人波の中で、警察に頼ったまま、五輪反対の声を上げ続ける異常な事態になった。

■間違った「中華中心主義」を警戒してこそ

 どの主張が論理に合い、理に適っているのかはここで論じない。けれども、韓国憲法には「デモの自由」が保障されている。聖火リレー阻止のグループは、事前に許可された場所、すなわち「オリンピック公園の向い側、韓米薬品ビルディング沿い」を抜けださずにデモを開いた。

 「チベットでの人権蹂躙(じゅうりん)を中断しろ!」という内容が彼らの中華民族主義を刺激したのかも知れない。しかし、投石されるほど不適切な意思表明はなかったと思う。

 前述デービッド氏もプラカードで個人的な意思表現をしただけで、何の言葉も発しなかった。なのに、「チベットは私たちの土地」を叫ぶ学生たちに囲まれた。

 誤解を招かないために改めて言う。

 中国人留学生たちが自分たちの意思を表現することは、なんら問題もない。しかし、その根底には、相手方の意思表現も尊重する互恵の精神が含まれていなければならない。

 自分と違う意見を認めず、平和的なデモに臨んだ人々を、数的優位で押さえつけることは大間違いだ。多様性の価値を重視する民主主義国家では、決してあってはならないことである。

 「中華の偉大さ」はよく分かった。「プライド」を叫ぶことも理解する。しかし、民主主義国家に留学し、何かを学びに来たのであれば、最低限その国の法と制度は尊重してもらいたい。

 同時に、考えの異なる人々の意思表現を、頑に防ぐ行為は自制してほしい。表現の自由は、暴力の自由ではない。民主主義国家であれば常識だ。

 最近の中国の「反西欧・反チベット」の動き。それは感情的な民族主義と画一的な全体主義に移行していると、4月27日、私は肌で感じた。非常に残念で、息苦しい。

(記者:ソン ジュミン)

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