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2008年04月26日(土) 16時18分

<硫化水素自殺>「腐敗臭の煙」悲劇(1) ネット情報拡散、47人死亡 巻き添えも急増毎日新聞

 硫化水素による自殺が全国各地で相次いでいる。体調を崩したり避難を強いられるなど周辺の人が巻き添えとなるケースも目立ち、深刻な問題となりつつある。行政の取り組みも始まったが、「自殺の連鎖」を止めるには、家族など周囲の人たち、自殺に使われた商品を製造する企業など総合的な取り組みが必要だ。【神澤龍二、清水健二、武本光政、永山悦子、千脇康平】

【続き】 硫化水素自殺:「腐敗臭の煙」悲劇(2) サイン気付いて

◇巻き添えも急増「他人の幸せ奪えるのか」

 「突然、死の恐怖にさらされた。後遺症はないのか」。今年2月、硫化水素自殺に巻き込まれた東京都渋谷区の女性会社員は今も、不安が頭から離れない。

 事件があったのは2月18日。3階建てマンションの1階に住む無職男性(27)が自殺を図った。3階に住む女性会社員は、強い硫黄のにおいで目覚めた。激しい頭痛や吐き気に襲われ、2人の子も泣きやまない。駆けつけた警察官とともに1階の部屋のドアを開けると、ジャージー姿の若者がソファに倒れ、床に転がった鍋から煙が噴き出ていたという。

 女性は硫化水素自殺のニュースを見るたび体が震える。「硫化水素自殺を図る人に、他人の幸せまで奪う権利があるのか。私たちのような人がこれからも出ると思うと悔しい」と言葉を詰まらせた。

 硫化水素自殺は、1月ごろからインターネットの掲示板で手口が紹介されるようになった。3月ごろから自殺件数が増え、メディアも大きく扱うようになった。4月に入って激増し、中旬以降はほぼ連日発生。3月以降に少なくとも39件47人が死亡した。家族が巻き添えで亡くなったケースもある。報道が自殺の連鎖を誘発する場合があることは知られており、日本自殺予防学会は今月18日、報道機関に▽詳しい方法を紹介しない▽相談機関などについての情報提供を併せて行う−−などの配慮を求める緊急アピールを出した。

 ただ、一昨年10月に国立精神・神経センター内に開設された自殺予防総合対策センター(東京都小平市)の松本俊彦・自殺実態分析室長は「今回はメディアにも比較的慎重な扱いが見られたが、はるかに早くインターネットを介した情報が広がった」と指摘する。

 03〜04年、インターネットで仲間を募り、自動車内で一酸化炭素自殺を図る「ネット心中」が問題化した後、自殺サイトの監視・管理強化や検索機能を使った自殺防止サイトへの誘導が始まった。しかし、自殺サイトの閉鎖や書き込み者の特定は、表現の自由の問題もあり簡単ではない。

 高知県香南市の市営住宅で23日に自殺した中学3年の女子生徒(14)は、硫化水素による自殺方法を「テレビで見て知った」と書き残していた。県警香南署によると、生徒の自宅にはパソコンなどの機器はなく、ニュースなどから知識を得たとみられるという。

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