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2008年04月26日(土) 13時01分

硫化水素自殺:周辺にも健康被害…相次ぐ 県内で今年17人 /愛知毎日新聞

 ◇ネットで手口拡大、削除対策なし
 硫化水素ガスを使った自殺の連鎖が続いている。県内だけでも今年1月以降、17人がインターネットで得た知識を基に、硫化水素を発生させて尊い命を絶った。この手法による自殺は、本人だけでなく周辺の人にも健康被害を及ぼす。現場に臨場した消防隊員は「周辺への2次被害が問題だ」と話す。県警は捜査員向けに、専用のガスマスクを装備した。ガス発生の材料に使われる薬剤メーカーも対応に苦慮しており、県などでも自殺防止への呼びかけを強めている。【山田一晶、岡崎大輔】
 ◇メーカー困惑
 ガスの発生に使われるとされる薬剤のメーカーは県内に本社がある。社長(64)は毎日新聞の取材に「自殺サイトなどで、自社製品の利用が勧められている。事細かに書いてあるが、デタラメな内容も少なくない」と困惑する。今月初め、同社製品をネットで販売している業者に対し、大量に購入するなど、不審者への販売自粛を要請した。「これまで問題なく使われてきた商品を、売らないように要請するのは経営者としても苦しい決断だった」と話す。
 同社が、自殺に製品が使われ始めたのを知ったのは昨秋。県警にも相談した。自殺サイトなどにも削除を求めたが、硫化水素の発生方法をネットに書き込んでもただちに法律違反にはならないため、要求しても聞いてもらえないことも多いという。「自社製品名を明かして、自殺に使わないように呼びかけても、かえって自殺を誘発する可能性もある。自殺防止キャンペーンに協力するしか対応策がない」と困惑する。
 ◇店頭で買わず?
 一方、県薬剤師会事務局も、県内の自殺事例で薬局などに聞き取りを行ったが、店頭で薬剤を大量に購入するなどのケースはなかったという。「大半はネットで購入しているのではないか。たとえ薬局窓口で買っていても、処方せんも必要のない薬剤なので、購入者に使用目的を確認するのも難しい」と対応の難しさを強調。さらに、「国から指導があれば対応策も取れるが、今のところ何もない。薬剤師に事件を報じる記事のコピーを送り、注意を喚起するのが精いっぱいだ」。
 ◇予防手引き配布
 一方、県こころの健康推進室は24日、記者クラブに対し、世界保健機関(WHO)が策定した「自殺予防 メディアのための手引き」を配布、報道の配慮を求めた。同室の担当者は「1次報道は、今でも新聞やテレビの影響力が強い。ただ、ガスを発生させる具体的方法はネットで詳細に書かれている。県警とも協力し、記述の削除を要請していきたい」と話している。
 県内でも自殺などの相談を受け付ける専用電話がある。「自殺を防ぐためにも、本人だけでなく、周囲の人も利用してほしい」と呼びかける。窓口は「名古屋いのちの電話」(電話052・971・4343)。
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 ◇4月に起きた県内硫化水素自殺事件◇
11日 名古屋市東区の団地で男性会社員(63)が死亡
17日 常滑市の薬局店外トイレで硫化水素が発生し、男性が中毒に。発生させた大学1年男子(18)を傷害容疑で23日逮捕
22日 阿久比町のマンションで無職男性(27)が死亡。住民が一時避難する騒ぎに
 同日 豊橋市の駐車場車内で男性会社員(33)が死亡
23日 安城市のマンションで無職女性(36)が死亡
 (県警発表に基づく)

4月26日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080426-00000092-mailo-l23