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2008年04月25日(金) 11時44分

「彼女が部屋に入れてくれない」彼のホントの悩み〜亀山早苗コラムオーマイニュース

 「同い年の彼女と1年以上、つきあっているんですけど、まだ彼女のひとり暮らしの部屋に入れてもらったことがない。これって、どうなんでしょう」

 32歳になる芳彦さん(仮名)が、困惑したような顔で言った。それはほかにも男がいるということではないか、と誰もが感じるだろう感想を、私も述べてみる。だが、彼は当然のことながら、そんなことはあり得ないと言う。

 「ただ、僕の会社からは自分のアパートに帰るより、彼女の部屋のほうが近いんです。それで仕事が遅くなって終電がなくなったときなど、『泊めてくれない?』と電話したこともあるんですが、それでもダメだと。彼女の言い分としては、一度部屋に入れると、関係がずるずるしてしまいそうな気がするのと、自分だけの空間に人を入れたくない、ということなんですけど」

 よく話を聞くと、彼女は美術関係の仕事をしており、確かに「自分の空間」をとても大事にしているらしい。一方、彼の部屋にはときどきやってくる。だが、泊まることはめったになく、うっかり眠ってしまったときは早朝に帰っていくのだとか。

 「何でも話せる関係だと僕は思っているし、僕自身は彼女に対してはオープンなんですけど、この話を先日、友人にしたら、『おまえは、彼女のことを本当に知っているのか』と言われて……。学生時代の仲のいい友人に言われたから、急に不安になってきたんです。少しずつほかの友人知人に話してみると、みんな『それはおかしい』って」

 他人に言われて揺らぐくらいなら、彼の彼女への気持ちも確たるものではないかもしれないと思いがちだが、彼らにとって、「自分たちの関係が普通かどうか」はかなり大きな問題なのだ。だから気にする。気にすると不安が増大されて、ますます揺らぐ。

 直接、彼女に「どうしても不安なんだ」と言ってみればいいと芳彦さんに言うと、彼は目を丸くし、しばらくして首を振った。

 「そんなこと言ったら、すぐ嫌われてしまいそうな気がします」

 彼女は相当、気分屋なの? わがままなの? そう尋ねても、彼が言うのは「とにかく自分の世界をもっている女性」ということだけだ。彼女の人となりは浮かびあがってこない。「一緒にいるときはけっこう優しいところもある」とあいまいな言葉が返ってくる。

 身も心もどっぷりと、なんていう恋愛はいまどきはやらないらしいから、身も心も多少の距離を置いた関係が居心地いいなら、それでもいいのではないかと思う。だが、彼としては、もっと彼女の心の中に入り込みたいという気持ちがある。それでも入り方がわからない。ストレートに聞いて彼女の機嫌を損ねるのは怖いし、しつこくすれば嫌われるのがわかりきっている。

 彼女自身が、そうやって自分の世界を守りながらでないとつきあえない女性なのか、あるいは相手が自分だから彼女がそうなっているのか。彼が知りたいのは、そこのところだろう。そして彼女が「自分の世界」と言っているのは、単にバリアーを張っているだけではないのか、ということも。

 「最初の半年くらいは、お互いを探り合っているところがあったから、彼女が自分の部屋に僕を入れないのも、女性なら当然の防御なのだろうと思っていたんです。だけど、1年以上もつきあっていて、詳しい住所も知らないとなると、やはり信頼されてないのかなと思うようになってきて」

 彼は、この関係が壊れるのを非常に恐れている。彼女への情熱が強いせいなのか、ひとりになるのが怖いからなのかはわからない。恋愛中は、何もかもいちいち理屈で考えるわけではないから、「去られるのが怖い」という気持ちはよくわかる。

 だが、釈然としない気持ちを抱えたまま、1〜2週間に一度は必ず会うという関係を、彼はどこまで続けていけるのだろう。「部屋に入れてもらえない」ことが問題なのではなく、「心を開いてくれない」ことが不安の原因ではないのだろうか。

 そう問うと、彼はむっつりと押し黙ったまま、ひとりで考え込んでしまった。

(コラムニスト:亀山早苗)

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