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2008年04月24日(木) 01時58分

「ネット規制法、保護者も子どもも迷惑」とPTA連会長 MS、ヤフーなどと会見ITmediaニュース

 「なぜ保護者に一度も相談がなかったのか。急にやられて一番迷惑するのは子どもと保護者だ」——全国高等学校PTA連合会の高橋正夫会長は4月23日、与野党が国会への提出を目指している「青少年ネット規制法」に反対する会見に、マイクロソフト、ヤフー、楽天、ディー・エヌ・エー(DeNA)、ネットスター(フィルタリングソフト大手)とともに参加し、法案への苦言を呈した。

【ネット規制法「高市法案」の概要】

 5社は22日に、自民党の谷垣禎一政調会長宛てに意見書を提出。今後はPTAと協力し、青少年を守るための取り組みを進めていく計画だヤフー、MSらネット大手が「青少年ネット規制法」に反対 「法規制は一番最後に来るべき」)。

 会見には高橋会長のほか、ヤフーの別所直哉法務部長、マイクロソフトの楠正憲CTO補佐、楽天の関聡司渉外室長、DeNAの春田真総合企画部長、ネットスターの高橋大洋広報部長が出席。法案への反対意見と今後の取り組みについて語った。

●「青少年ネット規制法」とは

 今回、問題となっているのは与野党が準備している複数の法案で、青少年に有害な内容のサイトの閲覧を、フィルタリングなどによって規制しよう——という内容だ。特に自民党の高市早苗議員が中心となって準備している法案は、国の権限や罰則を明確化し、規制色の強い内容。会見でもこの法案をベースに話が進んだ。

 自民案では「有害」と定義する情報として「特定の青少年に対するいじめに当たる情報」など具体例をいくつか示した上で、内閣府に設置する「青少年健全育成推進委員会」(最大5人)が、ネット上の全コンテンツについて、有害か無害かについての判断基準を作成することになっている。

 サイトに有害情報が書き込まれたことを知った場合は、個人を含むWebサイト管理者やISPは、サイトを未成年が入れない会員制にするか、フィルタリングソフトがアクセス制限する対象として申請する——といった対応を義務付ける。

 ISPやコンテンツ事業者には、有害コンテンツの削除やサービス停止を求め、従わない場合には罰則も設ける。市販される携帯電話については、契約者が不要と申し出ない限りフィルタリングサービスに加入。PCなどその他のネット接続機器については、フィルタリングソフトをプリインストールして販売することを努力義務とする。

●国の方針で子供たちを振り回さないで

 会見した5社は、この法案について複数の問題点を指摘。第一の問題として、「保護者の意見が十分に反映されておらず、保護者の子どもの教育に関する決定権を奪う恐れもある」と指摘する。

 「法案作成の過程で、保護者や教師への意見聴取は後回しにされた。ある私立学校の先生はこの法案について『政府があなたの家の門限を5時にしろと一方的に言ってるようなもの』と話していた」とヤフーの別所法務部長は言う。

 携帯電話のフィルタリングについては総務省主導で昨年から検討が進められ、この4月から、18歳以下が新規契約する際には、親が不要と申し出ない限りフィルタリングサービスを適用することが義務付けられている。

 「何を考えているのだろうと思った」——高校PTA連合会の高橋会長は昨年12月、総務省の検討会に呼ばれた際に初めて、フィルタリングに関する動きを知り、こう感じたという。

 「子どもや、その親である私たちを全く外し、国とIT企業だけで話を進め、一律でフィルタリングをかけるのは勘弁してほしい。なぜ保護者に一度も相談がなかったのか。急にやられて一番迷惑するのは子どもと保護者。国の方針で子どもたちを振り回さないでほしい」(高橋会長)

 一律フィルタリングは子どもの情報発信や教育の機会を奪うと高橋会長は言う。「積極的に社会に発信し、いろんな情報を得ようとしている子どもにまで一律にフィルタリングをかける必要があるのか。子どもが親の手元にいる間に、いろんな勉強をしてほしいと思っている親もいる。親子で勉強できる環境をつぶしてほしくない」(高橋会長)

 携帯電話のフィルタリングは現在、18歳未満なら小学生でも高校生でも同じ基準でサイト閲覧を規制されるが、「小学生と高校生が同じはおかしい。フィルタは学年で種類を分けたり、解除できるようにしていほしい」と高橋会長は注文を付けた。

●法案は表現の自由も侵害

 第2の問題点として5社は、表現の自由の侵害を指摘する。別所法務部長は「何が有害かは各人の価値観によって異なる。有害の基準を民間の委員会が決め、国がオーソライズするというやり方であっても、有害情報の削除義務を課すことは表現の自由に関する明確な規制」と話し、個人サイトや、メディア企業が運営するサイトへの表現規制にもつながると指摘する。

 ネット産業が官製不況に陥るきっかけにもなると主張する。「建築基準法や貸金業法、金融商品取引法改正と同様、ごく一部の問題に対処するために、ありとあらゆる事業者にしわ寄せが来る」(別所法務部長)

●教育で対策を

 「法規制は一番最後に来るべきものであって、まずは現在進みつつある民間の取り組みを後押ししていただきたい」(別所法務部長)——5社は今後、保護者や学校関係者と共同で、親子に対するネットリテラシー教育を進めていく。

 保護者が子どもにネットリテラシー教育をするための分かりやすい教材を提供していくほか、ネット業界から講師を派遣して保護者向け勉強会を開催。ネット事情に関する情報提供も行う。

 「時間はかかるかもしれないが、有害なものを目をふさいで見せないようにするよりも、教育で取り組んでいく方がずっと効果がある」(別所法務部長)

 高橋会長によると、PTAの会長会で資料を配れば全国の保護者に届けられるといい、5社の取り組みへの期待を込める。ただ、特に「情報」の教科がない小中学校の教師のリテラシーが低いという。「政府はリテラシー教育が必要だと3〜4年前から言っていたはずなのに、なぜそれに力を入れなかったのか」と高橋会長は悔しがる。

●「ネット=危険」の誤解

 新聞では毎日のように「学校裏サイト」をきっかけにしたいじめなどが報道され、「ネットを通じた事件や事故で、たくさんの子どもたちが被害を受けている」という意見も根強い。だがこの見方は偏っていると、別所法務部長は指摘する。

 「少年が犯罪被害にあう数は、ネットの普及前後を問わず一定。増えていない。ネットという通信手段の悪用に対して事業者が取り組めることはあると思うが、それで犯罪被害数が減るのかどうかも確認できていない。犯罪被害者を減らすには、ネットの取り組みだけではなく、大元の犯罪を減らす取り組みがないと意味がない」(別所法務部長)

 「ネットで子どもたちが大きな被害を受けているという言説は、例えて言えば、歌舞伎町の写真を見せられて『これが東京』と言われるようなもの。われわれネット事業者が、東京全体、日本全体を伝え切れていない部分もある。10年後には今の子どもたちが大人になり、そんな時代は過ぎるだろうが、それまでは事業者がきちんと活動をしていく必要がある」(別所法務部長)

 高橋会長も「ネット事業者に責任を負わせるのは筋違い」と話す。「確かに子どもたちは最近、携帯電話を媒介にした事故に巻き込まれることも多い。だが事故が心配なら、親は携帯を持たせなければいいい。携帯を持たせた親が、一番反省しなくてはいけない」(高橋会長)

 「有害情報」を意図的に発信している“悪徳事業者”への対策を問われると、別所法務部長は「悪徳事業者のコンテンツの大半は、違法なものと認識している。有害情報の対策ではなく違法情報の対策を進めるべき」と話した。

●このまま法成立の可能性も

 「保護者や子どもが望まない方法、かつ、効果が期待できない方法を国が一方的に推し進めることは、誰にとってもメリットはない」と別所法務部長は言う。だが「現在把握している自民党の議論では、もしかするとこの法案が国会審議される可能性がゼロではない」といい、「こういうものが最終形にならないように努力していきたい」と話した。

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