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2008年04月24日(木) 14時09分

光市事件、空気を読んだ死刑判決オーマイニュース

 22日、光市事件差し戻し審の判決公判を傍聴するため広島高裁に出向いた。3886人の傍聴希望者は、派遣会社のプラカードの下に集まる集団と、メディア関係者で埋め尽くされていた。

 アルバイトの傍聴希望者ではないことに気付いたのか、裁判所前で傍聴券配布の時間を待つ私のところに、NHKのテレビクルー、時事通信と、中国新聞の記者がインタビューにやってきた。「どうですか?」と聞かれても、一言二言で語ることが困難なこの事件、裁判だ。

 今までテレビ、新聞、雑誌などで伝えられてきたわかりやすいコメントも、無理はないなと感じながらも、言葉を選びながらインタビューに答えた。NHKクルーも、時事通信のアオヤマ記者も、中国新聞の男性記者もそんな私の言葉を、丁寧に聞いてくれた。被告の元少年が、かつての取り調べ警察官、担当検察官、裁判官や弁護士に、同じように予断なく耳を傾けてもらえていたら、今までの流れは変わっていたのではないかと感じた。

 9台のヘリコプターが旋回する空の下、抽選結果を知らせる拡声器の声も聞こえなかった。間もなく掲示された当選番号の一覧、補欠当選番号の一覧、いずれにも私の番号はなかった。

 仕方がなく、法廷前の廊下で判決を待つことにした。そこには、数多くのメディア関係者、ジャーナリスト綿井健陽氏、藤井誠二氏の姿も見られ、自分のような一般市民らしい人物も2、3人居たようだ。

 圧倒的人海戦術で傍聴券を手にした大手メディア関係者たちは、少しでもいい席を確保しようと小競り合いをする場面も見られた。彼らはボディーチェックが終わると、先を争うように法廷内に飛び込んでいった。当選整理券を傍聴券に引き換える手続きを忘れて、補欠当選者に先を越されてしまった記者も居たようだ。

 予定通り10時に公判が始まり、間もなく飛び出してきた記者たちは、

 「主文後回し、後回し」

と叫びながら屋外へ掛けていく。その時点で、死刑判決はほぼ決まったも同然だった。

 主文言い渡しまでの約2時間は、法廷に入れ替わり立ち替わりする記者(傍聴券は、別の人に渡すことができる。すなわち1枚の傍聴券でほかの人に渡して出入りは自由なのである)や、廊下のベンチで法廷スケッチが出来上がっていく図画版を横目で見つつ過ごした。

■予想通りの空気を読んだ判決

 12時を過ぎ、予想通りの判決だった。誤解を恐れずに言うが、あまりにも「易しい」(もしくは「優しい」)判決だったと私は感じた。これまでの関係者、取り調べ警察官、担当検察官、1審、2審の裁判所、裁判官、弁護人、そして被害者遺族に対して、「空気を読んだ」判決であったと私は思う。

 後になって、新聞紙面などで読んだ判決要旨によると、まるで「今まで言っていなかったことを言われたことに、必死に抵抗しているかのごとく」、新しい「事実」に対して、「信じられない」「理解できない」とバッサリと切り捨てていた。21人の弁護団に支えられ、搾り出された元会社員の言葉は一顧だにされなかった。

 私の回りにも、「復活の儀式」とは言わないが、荒唐無稽(むけい)な発想で驚かせてくれる人物は、少なからずいる。

 「元会社員の旧供述は信用できる」とは、計画的強姦(ごうかん)事件であるという、誰にでもわかりやすいストーリーだったことに過ぎないか。

 「被害児を床にたたきつけたこと自体は動かしがたい事実」とあるが、押入天袋に押し込まれた被害児が、捜査員らが天袋を開けた瞬間に受け止めることが間に合わず、床に落下してしまったのではないかなどと、想像の余地はないか。

 これまでの「起訴事実」を蒸し返さんでくれと、言わんばかりの判決文だった。ひとりの孤独な刑事事件被告、21人の弁護団から発せられた言葉よりも、これまでの関係者に配慮した、当たり障りのない結論だったと言える。

 今までの「起訴事実」を振り返り、立ち止まり、精査することを恐れた判決内容だったのではないだろうか。もう後戻りできない。そんな印象を受けた。

 これまでは、死刑判決を言い渡すには最大限の精査、配慮、勇気をもってしていたのではないだろうか。これからは、死刑を望む声に対して、死刑以外の選択をするには勇気が必要な世の中になるのだろう。

 KYな人物は、出世できない、友人が去ってゆく、話を聞いてもらえない、そして世間が許さない。そんな時代の幕開けを感じさせる判決だった。

 いったん決まったレール、走りだした列車は止まることを知らないのか。やり直しは許されないのか。立ち止まり、振り返ることを選んだ被告と弁護団の話は、誰も聞いてくれないのか。世間に受け入れられることはないのか。

 メディア関係者が居なくなった、裁判所の1階にある食堂で、カレーライスの食券を買っていると、エレベーターから降りてきた本村氏と目があった。私のことなど知らない本村氏は、軽く会釈をして通り過ぎていった。

(記者:田島 岳志)

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