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2008年04月24日(木) 10時48分

自分で使う木は、自分で育てよう!オーマイニュース

 3月23日、京都市北区雲が畑にて親子で理想の森プロジェクトが主催する植林に参加した。その際、理想の森プロジェクトのメンバーであるワシタカ工藝の森年弘(もり・としひろ)さんが、参加者全員に北山杉を加工したかわいい名札を用意してくださった。



 名札は美しい木肌とセンスが輝き、いたく気に入ってしまった。また、植林に参加した女子大生が、ワシタカ工藝さんのいすを買ったご縁で、植林に参加したと話してくれた。とても座りごこちがいいという。さらに、別の参加者の妊婦さんも、ワシタカ工藝さんとのご縁で参加したという。むむむ。妊婦さんをしてまで植林に参加させしめてしまうワシタカ工藝さんの家具とはいったい!?

 折りしも、ワシタカ工藝さんは、京都の北野天満宮の市(地元では「天神さん」と呼ばれる)に毎回参加していると聞き、出掛けてみた。

 毎月25日の天神さん、3月はぽかぽか陽気で、たくさんの人。春休みで子連れも多い。参道に並ぶ、古美術品、乾物(かんぶつ)、おもちゃ、着物。

 ワシタカ工藝さんは参道の向かって右側の通り、古い着物や、骨董(こっとう)の店がひしめく中にあった。杉の滑らかな木肌がそのまま生かされたいすや机。天然オイルで仕上げているそうだ。美しい木肌は眺めているだけでも、穏やかな気持ちにさせてくれる。ほのかに杉の香りも漂う。

 看板商品のいす「ワシタカスツール」に腰掛けてみる。じんわり木のぬくもりが伝わってくる。このいすは寒い冬でも、おしりが冷たくないそうだ。おしりのカーブに合わせて緩やかな曲線を描くいす。

 通りがかった若者が、いすの手触りを確かめている。森さんの「どうぞ座ってみてください」の言葉に若者は腰掛け、「座っても木のやわらかさを感じますね。」と座りごこちに満足気。「木がやわらかいので傷がつきやすい点はあるけれど、それも使い込まれた味わいと考えてくれれば」と、森さん。見た目よりいすは軽く、片手で持てる。

 森さんは京都市北区の鷲峰に工房を構えて4年になる。このワシタカ工藝の名前は鷲峰の地名に由来する。工房を開く以前は、森さんは建築現場の監督助手をしていた。その後、内装に興味がわき、お店に使う什器(じゅうき)と呼ばれる収納家具の図面をかいていたが、次第に、デザインが豊富ないすに興味を持つようになる。

 初めは、素材よりも、イタリアに代表されるような見た目の華やかなデザインの家具に引かれたそうだ。その後、木工の訓練校にて1年間学び、家具工房で2年修行。そのころから北欧のいすに興味を持ち、見た目のデザインよりも素材を重視した家具作りを目指すようになる。

 家具の素材について森さんは思い入れを語る。「始めは、イギリスのアンティーク家具で使われるナラや、オークの方がいいなと思っていました。でも、スギやヒノキの良さに気付いたんです。座りごこちのやわらかさや、木目のやわらかさ。おまけに軽くて丈夫なんです」

 日本では、家具の素材は安い外国産木材に依存しているのが現状だ。だからこそ、森さんは家具作りに地元の木をできる限り使いたいと話す。工房の定番商品は地元京都産のスギ、ヒノキで作りられている。

 また「工房を立ち上げた当初から還元することを考えていました」と森さんは語る。還元とは、家具作りで使った分の木をまた育てること。還元として森さんは、植林などの森作りに参加する。「自分1人でできることには限界がありますから。森作りの地ごしらえを手伝ってから、楽しくなって続けています」と、森さんは、気負うことなく語る。さらに森さんは、工房の売り上げの1%を森作りの費用に充てている。

 工房は、2種類だけのいすから始まったそうだ。そのうちの1つが、看板商品のワシタカスツールだ。ワシタカ工藝の和洋どちらにもなじむシンプルなデザインの家具たちには、ウェブサイトで見ることができる。家具たちには、ほほえましい名前もついている。森さんの誠実なものづくりへの姿勢とユーモアがそのまま、表れているようだ。

 森さんの家具は、くぎや金具を使わない。昔ながらの継手加工と呼ばれる、木と木を組み合わせていく手法を用いる。「量産している家具は、金具を使うものが多いですけどね。金具やくぎを使うと木がやせてきて乾燥してくるんですよ。そうすると、ぐらつきが出てくるんです」

 気になる家具のお値段だが、手作りのため、量産品に比べると高いと思われるかもしれない。しかし、飽きのこないデザインで子や孫の代まで使えば、結果的にお得に思える。「このいすはね、おばあちゃんが大事に使っていたいすなんだよ」なんて物語ることのできる家具には、価格に代えられないものがある。

 森さんは、家具の修理やリメイクも受けている。大きく育つまで長い時間を経てきた木。その大切な木を使った家具を、お客さんにも長く使ってもらえれば、との思いを込める。

 「一生ものの家具を作りたいですね。何十年後に、『天神さん』で、アンティークとして出るような家具をね」森さんは、笑顔を輝かせた。

(記者:藤田 裕子)

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