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2008年04月23日(水) 16時02分

偽装映画『純愛』会計の裏事情オーマイニュース

 これまでオーマイニュースで繰り返しリポートしてきた偽装映画『純愛』(主演・総指揮=小林桂子氏)。興行収益の寄付先としていたNPO法人が実在せず、「EXILE」ATSUSHIの所属事務所から主題歌を引き揚げられるが、その経緯を偽って協賛企業を騙すというデタラメを積み重ねてきた。

 07年12月にオーマイニュースと『週刊朝日』がこの問題点を報じた際、同映画の会計顧問を務めていた公認会計士・細山勝男氏(麻布愛和会計)が辞任。当時はオーマイニュースの取材申し入れに対して「コメントすることはない」と回答した細山氏だが、このたびインタビューに応じてくれた。今回はインタビュー前編。

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■事務所移転は「トンズラ」ではなかった

──今回、取材を受けていただけることになった背景には、どのような変化があったのでしょうか。

 昨年、藤倉さんから電話をいただいた時は、『純愛』を運営している奥山省吾さん・小林桂子さんと話し合いができておらず、お二人が弁護士に相談していると聞いていたので、不用意な発言は避けたかったんです。また、自分の会計事務所の移転のために多用で、取材に応える余裕もなかったです。

 さらに、どちらかというと藤倉さんにあまり好感を持っていませんでした。ですが事務所も落ち着き、『純愛』に関する出来事も落ち着いてきた。あと、藤倉さんの個人サイトを拝見して、好感を持つに至った部分もあった。共感できる部分と同時に、ズレもありますが。

──事務所の移転は『純愛』報道とほぼ同時でしたが、「トンズラ」ではなく以前から決まっていた?

 移転計画が持ち上がったのが昨年の6月。9月には物件を決めていて、『週刊朝日』に『純愛』の件が載った12月は、内装工事が終わったころでした。トンズラしたように見えますが、実際には全く別のアクションです。

■セミナー受講前からプロジェクトに参加

──細山さんが『純愛』に関わった経緯を教えてください。

 プロジェクトが本格化して、資金を投資という形で集めるというプランが持ち上がったころ。2002年半ばから終わりごろです。もともと奥山さんは、大学のサークルの先輩。千葉の勝浦に同じマンションを買ったことで再会して、頻繁に顔を合わせるようになりました。そこで「映画を作るプロジェクトをやってるんだよ」と言われました。

──細山さんがETLジャパンの自己啓発セミナーを受講した時期との前後関係は?

 まず、プロジェクトへの協賛金として10万円を出して、『純愛』の実行委員になりました。仕事が順調に行っていて、利益の一部でも社会に還元したいという気持ちがあったんです。セミナーを受けたのはその後。奥山さんたちは、僕を会計顧問にするためにセミナーを勧めたのではなく、僕が自分の会社の社員との人間関係などについて考え込んでいたから勧めてくれたんだと思います。

■「小林桂子基金」は実質機能なし?

──会計顧問として担当された実務の内容は?

 投資の基本的な枠組みについてのアイデアと、契約書のひな型の作成です。お金の管理はノータッチ。そこは市川慶子さん(広報担当)が処理していました。また、半年ごとに投資家に会計報告をするため、市川さんがまとめた経費の集計を元に僕が会計報告書を作るお手伝いをしていました。

──架空NPO法人だった「小林桂子基金」(代表理事・小林桂子氏)について、存在の真偽を確認したり運営にタッチしたことは?

 映画の収益金は、小林桂子基金に入ってないと思います。(映画製作資金の出資を募った)匿名組合の営業者は有限会社ケイズカンパニー(代表取締役・小林桂子氏)で、プロジェクトの運営もお金の計算も全部そこがやっています。

 小林桂子基金は、少なくとも僕が関わっていた期間には、経済取引の主体として現れたことは一度もありません。中国に学校を作る際に、お金が小林桂子基金を通ったかもしれませんが、そこは僕のあずかり知らぬ部分でした。会計顧問が小林桂子基金へのお金の出入りを見なくていいのかという問題はありますが、少なくとも僕は見てないです。小林桂子基金については、映画興行の収益が確定した後に余剰金を基金に寄付するときに登場するものだと、投資家全員が考えていたと思います。

■会計監査は行われていない

──NPO法人設立に関して、『純愛』の小林桂子氏・奥山省吾氏らは「第三者に騙された」と言っています。設立の際、細山さんに相談はなかったのでしょうか。

 ないです。設立事務は市川さんが自分でやっているのだと思っていました。

──「第三者」にだまし取られたお金は、出資金の1億円から出たものなんでしょうか。

 僕は知りません。財務諸表の作成のお手伝いはしていましたが、監査的なチェックはしてませんので。

──すると、投資家たちにも具体的なお金の使途は知らされていない?

 例えば、事務用品費・旅費交通費・人件費などの合計値は報告されていますが、その内訳の詳細は僕も知りませんし、投資家にも伝わっていません。

──匿名組合って、そんなもんなんですか?

 そんなもんですね。でも、純粋なビジネスとしてやる場合は、必ず会計監査人を立てます。

──配給のプロジェクトデザイン社(代表取締役・奥山省吾氏)への支払いや、出演者へのギャランティーは?

 報告書には出てきませんが、彼らとの会話の内容から僕が認識しているのは、日本側の出演者のうち小林桂子さんや川口恭誉(YASUTAKA)君には出演料は出てないと思います。中国の俳優さんには出てると思いますが、金額はわかりません。プロジェクトデザイン社に関しては、まだこの映画の利益が出ていないので、経費部分の実費精算分くらいしか支払われていないと思います。

  ◇

 細山氏は『純愛』の会計顧問を名乗っていたものの、担当業務の中では『純愛』の収支の詳細までは把握していなかったという。小林氏・奥山氏とのやりとりも、会計担当としてより友人としてのやりとりが中心で、上記のギャラの話も、そうした会話の中で知ったとのことだ。

 『純愛』は、07年8月の銀座興行の際、パンフレットを劇場に納入せず、それでいながら自称「配給会社」代表の奥山氏は、パンフレットが販売されるかのようにmixi内で宣伝を繰り返し、客を騙していた。この点についても、細山氏は事実関係は知らないという。

 後編では、会計顧問辞任の理由と、『純愛』に対する胸の内を語ってもらう。

(記者:藤倉 善郎)

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