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2008年04月23日(水) 21時28分

吉野家向け米国産牛肉に特定危険部位朝日新聞

 農林水産省は23日、牛丼最大手の吉野家向けに伊藤忠商事が輸入した米国産牛肉の中に、牛海綿状脳症(BSE)の原因物質が蓄積しやすい「特定危険部位」の脊柱(せきちゅう)が混入していたと発表した。06年7月の米国産牛肉の輸入再々開以降、米国産牛肉から特定危険部位が見つかったのは初めて。問題の牛肉は、市場には出回っていない。

 米国産牛肉は、特定危険部位を取り除くことが、輸入の条件となっている。

 伊藤忠から22日、農水省と厚生労働省に連絡があった。伊藤忠が昨年8月、米国のナショナルビーフ社カリフォルニア工場(カリフォルニア州)からバラ肉700箱(約17トン)を輸入し、吉野家に転売した。吉野家は埼玉県内の倉庫に保管していたが、21日に箱をあけたところ、1箱(27キログラム)に脊柱が含まれた腰部の肉が入っていた。米農務省が発行する衛生証明書に記載がなかった。

 吉野家が埼玉県に通報。同県などが調べた結果、証明書とは違う肉が入っていたのは1箱のみで、699箱の肉は問題はなかった。吉野家は問題となった工場以外でも米国の12工場との取引を継続しており、24日以降も牛丼の販売を続ける方針。一定数の在庫もあり、「当面の牛丼販売には影響がない」としている。

 農水、厚労の両省は22日、同施設からの輸入手続きを停止、米国大使館に対し詳細な調査を求めた。また厚労省は、検疫所での米国産牛肉の抜き取り検査を強化するよう全国の検疫所に指示した。ナショナルビーフ社の工場に対しては、米政府の調査結果を受けるまで当面の間、輸入を停止。輸入業者に対しては、貨物の搬入時や流通段階での検品の徹底を指導した。

 BSE発生で03年12月に輸入禁止となった米国産牛肉は05年12月に輸入が再開された。しかし、06年1月、脊柱が成田空港で見つかり、再び輸入が禁止された。輸入再々開となったのは06年7月。現在は、米国産牛肉について生後20カ月以下で特定危険部位が取り除かれた牛肉のみの輸入が認められている。

 米国は輸入条件の緩和を求めており、日米の協議が続いていた。米国が月齢条件の完全撤廃を求めているのに対して、政府は「30カ月」を提示して交渉が続いていた。

 政府は条件面で日米の合意が得られれば、食品安全委員会に諮問した上で輸入条件を緩和する方針だった。今回、危険部位の混入が見つかったことで、改めて米国産牛肉の安全性が問われることになり、日米の協議そのものが白紙状態になる可能性がある。

 一方、厚労省と農水省は昨年6月、すべての日本向け米食肉処理施設が条件を守っているとの査察結果をまとめ、全箱検査を終了している。厚労省は、検疫所で施設の輸入実績に応じて抜き取り検査を実施している。今回の問題となった工場からは06年7月以降、約1万1千トンが輸入されているが、これまでに違反はないという。抜き取り件数は「一番緩いタイプに該当する」としている。担当者は「すべてを検疫所で発見するには限界がある」と話す。

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 〈特定危険部位〉 牛海綿状脳症(BSE)の病原体とされる異常たんぱく「プリオン」が蓄積しやすい部分のこと。日本では脳や脊髄(せきずい)、脊柱などの部位を厚労省が指定している。BSEに感染した牛でなければ、これらの部位を人間が食べても健康上の心配は通常ない。感染牛ではプリオンの99%以上が危険部位にたまるため、確実に取り除くことがBSE対策の柱になっている。米国は脳や脊髄などを取り除く対象は生まれて30カ月以上の牛に限っているが、日本向けではすべての牛で取り除くことが条件。 アサヒ・コムトップへ

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