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2008年04月23日(水) 01時52分

有害サイト規制綱引き 青少年保護か表現の自由か朝日新聞

 携帯電話などの出会い系サイトを通じて、子どもが事件に巻き込まれる例が相次いでいる。与野党では、インターネットの有害な情報を規制する法案づくりが進む。今国会への提案を目指すが、表現の自由にもかかわり、「有害」の定義や規制の仕方をめぐり意見が対立している。

  

■政府・自民

 警察庁のまとめでは、携帯電話の出会い系サイトをきっかけに買春などの被害に遭う18歳未満の子どもは毎年1千人を超える。自殺サイトを利用した集団自殺にかかわったり、死体などを掲載する残虐なサイトを見たりしていたケースもある。

 被害を防ぐため、政府はこの1年、首相をトップとする教育再生会議や総務省、警察庁などが有害情報対策を急ピッチで進めた。

 自民党内の動きも活発で、政務調査会の内閣部会と青少年特別委員会、総務部会、経済産業部会がそれぞれ規制案を話し合う「異常事態」(霞が関の経済官庁幹部)。規制の度合いも濃淡がある。

 最も過激な規制案を打ち出したのが、高市早苗・前少子化担当相を中心とした党青少年特別委員会だ。情報の有害性を国が定義・審査するのが特徴だ。有害情報を「著しく残虐性を助長する情報」「著しく犯罪、自殺及び売春を誘発する情報」などと定義。内閣府に独立した権限を持つ行政委員会を置き、具体的な有害性の基準を定める。

 基準に合わないサイトは閲覧を制限する。このため(1)携帯電話会社とネットカフェ業者にはフィルタリング(閲覧制限)サービスの提供(2)サイト管理者には有害情報を含む場合、18歳以上を対象とする会員制への移行(3)プロバイダー(ネット接続事業者)には有害情報の削除——を義務付ける。是正命令にも従わない違反者には懲役や罰金を科す、という内容だ。

 規制に慎重なのが総務部会だ。22日には▽有害情報の定義はできない▽携帯電話会社にフィルタリングを利用するかどうかの意思確認を義務付ける▽プロバイダーは青少年の適切なネット利用の確保に努める——などの対策骨子をまとめた。経済産業部会も、「国の関与は最小限とし、国は民間の取り組みを支援」などの方針を申し合わせた。

 高市案に対しては、党内から「行き過ぎだ」「表現の自由や業者の育成など多面的な検討が必要」など異論が出ている。これに対し、高市氏はあくまで青少年問題だという立場を押し通している。

 こうした部会間の溝を埋めようと、有害性の基準策定や判断は民間の第三者機関が行い、国の審議会が「お墨付き」を与えるような折衷案も浮上し、調整が続いている。

 規制強化に手を挙げているのは自民党だけではない。

 民主党は、携帯電話会社にはフィルタリングの提供を義務付け、有害性の審査は第三者機関がする内容を軸に法案づくりを進める。「高市案は行き過ぎ。総務部会案は甘すぎる」と民主議員。自民・民主とも超党派での法案提出や修正協議を模索している。

■業界団体

 携帯電話業界や、携帯サイトを営む事業者らは高市案に強く反発している。

 4月初めの自民党でのヒアリング。業界団体からは「有害の概念は個人の倫理観、価値観により違う。一律の基準を設けるのは難しい」「有害の判断を国がすべきではない。言論統制につながる恐れもあり、自主規制に委ねるべきだ」との反論が相次いだ。

 事業者らが反発するのは、規制が強化されると事業範囲が狭められるという心配もあるが、かりに高市案がそのまま法制化されれば、「表現の自由」と並んで「通信の秘密」という憲法で保障された権利が侵されることを懸念する。

 国がサービスの中身に関与する契機となりかねず、長年、通信法制に携わってきた総務官僚も「青少年にとっての有害情報が、すべての年齢を対象にした有害情報へと拡大していきかねない。法律とはそういうものだ」と将来、法律が拡大解釈される恐れを指摘する。

 急がれるのは、通信における自主規制の取り組みだ。テレビ業界には自主規制機関「放送倫理・番組向上機構」(BPO)があるが、通信業界では今月8日、携帯のフィルタリングに関する第三者機関「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構」(理事長=堀部政男・一橋大学名誉教授)ができたばかりだ。

 同機構の審査・運用監視委員に就く東京大大学院の長谷部恭男教授は、「インターネットはコミュニケーションや表現の場として重要な役割を果たしている。有害情報対策は、通信の秘密や表現の自由にかかわるため、公権力による規制は最後の手段であるべきだ。青少年保護は重要な目的だが、まずは民間の工夫でどこまでできるか見守ることが大切」と話す。

 また、子どもを有害情報に触れない「無菌状態」に置くのではなく、それに対応できる知恵を養う必要があると指摘する。

 インターネットは、広告費で6003億円とラジオや雑誌を抜き、新聞に次ぐ第3の広告媒体だ。しかし、不特定多数に情報を送る通信メディアへの規制の議論を始めたのは昨年6月。こうした不作為のつけが、有害情報問題で一気に出た側面もある。

■親

 豊島区の男性(39)は、中学3年の長男と小学4年の長女に携帯電話を持たせている。塾やクラブ活動で帰宅が遅くなった時などにメールで連絡を取りあう。長男にとってゲームや音楽などの最新情報を入手したり、メールで友人と待ち合わせの約束をしたりと、携帯は欠かせない。ただ、男性は「ネットは便利だが、使い方を間違えると大変」と言う。

 昨年、長男が出会い系サイトにアクセスしてしまい、毎日のように料金請求のメールが送られてきた。男性と妻は約2時間、インターネットの危険性について話して聞かせ、携帯は居間で使うというルールを決めた。男性は「子どもが見ているサイトすべてを把握することは無理。不安は残る」として、フィルタリングの利用を検討している。

 内閣府が昨年9月に実施した調査で、インターネット上の「有害情報」を規制すべきだと答えた人は9割。日本PTA全国協議会の加藤秀次副会長は、学校裏サイトへの書き込みによるいじめ、出会い系サイトを通じた援助交際などの問題が起きている実態を指摘。「はんらんする有害情報を放っておけない。子どもの健全育成を優先すべきだ」として、有害な情報の削除やフィルタリング義務化などの法規制を求める。(高橋福子) アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0423/TKY200804220366.html