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2008年04月22日(火) 12時19分

光母子殺害、元少年に死刑判決 広島高裁差し戻し控訴審朝日新聞

 山口県光市の母子殺害事件で、殺人と強姦(ごうかん)致死、窃盗の罪に問われた元少年(27)に対する差し戻し控訴審で、広島高裁は22日、無期懲役とした一審・山口地裁判決を破棄し、死刑の判決を言い渡した。楢崎康英裁判長は「犯行は冷酷残虐で非人間的と言わざるを得ない。殺害の計画性や強姦の強固な意思があったとは言えないが、虚偽の弁解を展開して罪と向き合うことを放棄し、遺族を愚弄(ぐろう)する態度は反省とはほど遠く、死刑を回避するに足る特段の事情は認められない」と判断。一審の事実認定に誤りはないが、量刑は軽すぎると判断した。

遺影を手に法廷に向かう遺族の本村洋さん=22日午前9時41分、広島市中区の広島高裁、青山芳久撮影

光市母子殺害事件の差し戻し控訴審が開かれる広島高裁の法廷=22日午前9時55分、広島市中区、代表撮影

 検察側は死刑を求め、弁護側は傷害致死罪の適用による有期刑を求めていた。

 楢崎裁判長は主文の言い渡しを後回しにし、判決理由の朗読から始めた。まず、新弁護団がついた上告審の途中から、元少年側が殺意や強姦目的の否認を始めた経緯を検討。「当初の弁護人とは296回も接見しながら否認せず、起訴から6年半もたって新弁護団に真実を話し始めたというのはあまりにも不自然で到底納得できない」と述べた。

 また、元少年側が「被害女性の首を両手で絞めて殺害した」との認定は遺体の鑑定と矛盾し、実際は右手の逆手で押さえつけて過って死亡させたものだとした主張を退け、「そのように首を絞めた場合、窒息死させるほど強い力で圧迫し続けるのは困難であり、遺体の所見とも整合しない」と判断した。

 さらに、被害女性に母を重ねて抱きついたとする元少年側の「母胎回帰ストーリー」を「被害女性を姦淫した犯行とあまりにもかけ離れている」と否定。「性欲を満たすため犯行に及んだと推認するのが合理的だ」と述べた。また、被害女児の首にひもを巻いて窒息死させたとの認定にも誤りはないとした。

 差し戻し控訴審は昨年5月に始まった。当初は「酌むべき事情」としての更生(立ち直り)の可能性など情状面の審理が中心になるとみられていたが、上告審段階から弁護を引き受けた新弁護団は「事実こそが最大の情状」として事実認定を争った。このため、殺意の有無▽強姦目的の有無▽元少年の成育歴が犯行に結びついたかどうか——が主な争点となった。

 弁護側は「精神的に未成熟で対応能力が欠如した少年が偶発的に起こし、予想外に拡大した事件だ」と総括。成育歴については父親の虐待を受け、同様に暴力を受けた母親に深く依存していたが中学1年で母親が自殺し、心の支えを失ったと主張。「母胎回帰ストーリー」を展開し、強姦目的も否定した。

 検察側は「殺意に基づいて両手で絞めたのは明白」と反論。被害女児についても「いつの間にか首にひもが巻かれて死亡していたというのは不合理な弁解」と弁護側の主張を否定した。さらに、成育歴は犯行を決定する主要因ではないとし、母胎回帰ストーリーの主張を「非科学的で荒唐無稽(こうとうむけい)な弁解」と非難。そのような主張そのものが被害者や遺族を侮辱しているとして「被告に反省悔悟を求めることは無意味。二審段階以上に死刑に処すべきことが明らかになった」と強調した。

 元少年側は二審までは起訴事実を認めていたが、最高裁が05年12月に弁論期日を指定し、二審の無期懲役判決を見直す可能性が高まった後に新しい弁護人がつき、主張を変えた。新弁護団は元少年側が起訴事実を争っていなかったのは、検察官から「強姦目的を認めないと死刑の公算が大きい」と自供を誘導されたほか、無期懲役を期待した当時の弁護人の方針だったとしていた。

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 〈光市母子殺害事件〉 99年4月14日、会社員本村洋さん(32)の妻弥生さん(当時23)と長女夕夏ちゃん(同11カ月)が殺害されているのを、本村さんが自宅で発見。当時18歳の元少年(27)が逮捕・起訴された。一審・山口地裁(00年)と二審・広島高裁(02年)は殺意や強姦目的を認定する一方、「内面の未熟さが顕著で、更生の可能性がないとはいいがたい」などと述べて無期懲役とした。しかし、最高裁は06年6月、「二審判決が判示する理由だけでは、その量刑判断を維持することは困難」として破棄し、「死刑を回避するに足りる、特に酌量すべき事情があるかどうかさらに審理を尽くさせるため」として審理を差し戻した。 アサヒ・コムトップへ

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