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2008年04月22日(火) 00時00分

(28)居残りも続出講習に熱気読売新聞

ディアナさん(左)にパソコンを使った背景画の描き方を教える新海さん

 「ぜひ、参加したいんです。お願いします」。新進アニメ映画監督、新海誠さん(35)は1月中旬、滞在先のヨルダンの首都アンマンで、予期せぬ訪問を受けた。押し掛けてきたのは、ディアナ・アバディーさん(大学4年生)。目に涙をためて訴える。映像関係の学校に新海さんがアニメを教えるためやって来たと聞き、いても立ってもいられず、飛び込んできたらしい。

 「日本のアニメに作法や思いやりを学んだ」と言うディアナさん。熱意に打たれた新海さんは快諾し、予定より1人多い22人で講習は始まった。

 期間はわずか8日間。人物などは習得に時間がかかるため、教えるのは「背景」に絞った。美しい背景と言えば新海さんの十八番。最新作の『秒速5センチメートル』でも、月明かりの雪原、夕日が差し込む教室、朝焼けに染まる透き通った海……といった光景がストーリーを彩っている。

 参加者はデジカメで撮影した石造りの街並みやローマ時代の遺跡、広大な砂漠の写真を参考に、パソコンを使って背景画を描いていった。当初は遅刻する不届き者もいたが、講習が進むに連れ、熱が入り、終了の午後6時が過ぎても教室に居残る生徒が続出。最終日に、各人の背景に、用意した鳥の動画を重ねて発表すると、感激で涙ぐむ女性もいた。

 「絶対にまた来る」。そう言った新海さんに、ディアナさんは自分で描いた新海さんの似顔絵を贈った。そして「アニメ制作の夢は絶対実現させる」と誓った。

 新海さんは「アニメが好きという気持ちに国境も宗教も人種もない」と改めて感じる。「アニメを作る時、日本で育ったという共通の前提にはもう頼れない」とも。ディアナさんたち生徒一人一人の顔を懐かしみながら。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231203958795871_02/news/20080423-OYT8T00142.htm