記事登録
2008年04月22日(火) 19時28分

次世紀ファーム研究所・教祖が法廷に初登場オーマイニュース

 2005年、宗教集団「真光元(まこも)神社」(教祖・堀洋八郎氏)の関連施設「次世紀ファーム研究所」(岐阜県恵那市)で、当時中学1年生だった小児糖尿病の少女が死亡した。同団体では、堀代表が販売する健康食品「真光元(しんこうげん)」を飲めば病気が治るとしており、施設に宿泊していた少女は、糖尿病患者の体調維持に必要なインスリンを持参していなかった。

ほかの写真をみる

 この事件にからんで07年6月、少女に同研究所での宿泊を勧めた天羽(あまは)昌子被告が過失致死・薬事法違反容疑で在宅起訴され、岐阜地方裁判所で審理が続いている。4月21日の公判では、真光元神社の「教祖」で次世紀ファーム研究所の代表である堀洋八郎氏が証人として出廷した。事件をめぐる一連の裁判で、堀代表が法廷に立つのは、これが初めてである。

■3年前の痛ましい事件

 05年7月18日、次世紀ファーム研究所で当時中学1年生だった少女が亡くなった。持病の小児糖尿病の体調維持に必要なインスリンを注射しなかったことによる糖尿病性昏睡(こんすい)だった。

 真光元神社は東京・江戸川区を拠点とする宗教集団で、礼祭や研修を行っている。また、ガマの一種の草を粉末状にした「真光元」(しんこうげん)を 150g・6万3000円などで販売。教義上、真光元から生じる「光合堀菌」は「大宇宙自然界の神霊すなわち大御神(おおみかみ)そのもの」とされ、堀氏の「神通力」とあわせて、難病治療に効果があるとされていた。

 少女は同月15日から、当時信者だった母親に連れられてインスリンを持参せずに次世紀ファーム研究所に宿泊。この間、少女は、堀代表や幹部から手を握ってパワーを注入するなどの「施術」を受けていた。16日に少女は嘔吐(おうと)や発熱、食欲不振などの体調不良を訴えるが、両親から報告を受けた幹部は「これは好転反応だから大丈夫」「私もここに来た時は、一週間くらいずっと吐いたが、その後ものすごく元気になったから大丈夫」などとし、母親を納得させてしまう(母親が堀代表らを訴えた民事裁判の訴状より)。

 17日に母親が仕事の都合で一時的に次世紀ファーム研究所を離れる。その間、少女は病院に運ばれることもなく、翌18日に亡くなってしまった。

■母親と教祖は不起訴

 事件後、母親は過失致死容疑で書類送検された。被害者遺族である母親が責任を問われる立場にもなったという、やりきれない事件だ。

 岐阜地検は07年6月、「過失は認められるが一方で遺族でもある」として母親を不起訴処分にしたが、同時に、過失致死・薬事法違反容疑で書類送検されていた堀代表についても不起訴とした。両親は06年1月に、堀代表ら関係者5人を相手どり計約1億円の損害賠償を求める民事訴訟(東京地裁)も起こしているが、刑事裁判の判決を待つため、現在、審理が中断している。

 この民事裁判を左右する刑事裁判が、07年6月に在宅起訴された看護師で健康食品販売業・天羽被告の裁判(岐阜地裁)だ。

■堀代表には病気を治す力はない

 起訴状によると天羽被告は、少女の母親に「健康食品を食べていれば糖尿病が治る」として、同研究所への宿泊を勧めた人物。少女の体調が悪化した際には、天羽被告は「インスリンは絶対に打たないでね」とスタッフに指示し、少女を病院に運ぶなどの適切な治療を受けさせなかったとされる。しかし07年9月の初公判で天羽被告は、起訴事実を否認し無罪を主張しているが、少女にインスリンを注射させないよう指示したこと自体は認めている。

 08年4月21日、天羽被告の裁判に出廷した堀代表は、腰を痛めているらしく、腰に手をやり足を引きずりながら証言台に立った。しかし、話す声は力強くはっきりしている。広告などで、病気が治るとして真光元を宣伝していた堀代表だが、証言台ではこんな発言。

「研修会には健全な人しか参加しておらず、糖尿病患者が参加するのは初めてだった。少女が嘔吐などをしている報告を受けて、看護師であり紹介者でもある天羽被告に連絡したが、天羽被告も少女の普段の様子について詳しくないようで、特に指示やアドバイスはなかった。アドバイスがあれば間違いなく実行していた」(堀代表)

「自分は病気を治すなどという大げさなことはしていないし、できるとも思っていない」(堀代表)

 天羽被告やほかのスタッフと少女の容体について連絡をとりあった時期や内容に関する証言はあいまいで、検察や弁護人から矛盾を指摘されるたびに、堀代表は「記憶が薄れている」「以前、検察で話した調書の方が正しい」といった発言を繰り返した。質問に対して、「調書には何て書いてありますか?」と自嘲(じちょう)気味に笑う場面も。

■堀代表、法廷で遺族に暴言

 尋問の終盤、検察官が「○○ちゃん(死亡した少女)の件について、どう考えていますか?」と質問。堀代表は、少女の遺影を座席に置き最前列で傍聴している母親の方に一瞬、視線を向けてから、ひときわ大きな声でこう言い放った。

「母親に見捨てられて殺されたことを、本人(少女)も苦しみ悲しんでいるだろうと思います」

 閉廷後、母親に話を聞くと、

「事件直後に堀代表はテレビの取材に対して、似たようなことを言っていた。だから、堀代表が法廷でああいうことを言うことも、ある程度覚悟はしてきましたが、やはり悔しいです」

■大手メディアは、もうこの事件を報じないのか

 この日の法廷は、80人程度の傍聴席に対して傍聴人の数は、地元メディアの記者数人と、真光元神社の信者、堀代表が経営する健康食品販売会社スタッフ、被害者遺族とその支援者・弁護士など計20人ほど。閉廷後の母親への囲み取材の様子を見る限り、堀代表の裁判所「初登場」であるにもかかわらず、地元司法記者クラブの記者以外に報道関係者の姿はなかった。

「この春、娘が通っていた中学校が、娘を卒業させてくれたんです。私が卒業式に出席して、卒業証書をもらいました。みなさんはもう、あの事件のことを忘れてしまっているかもしれませんが、真光元神社の信者の中には、ほかにもひどい被害を受けている人がいます。これ以上、被害が出ないように、頑張っていきたいと思っています」(母親)

 真光元神社は現在も活動を続けており、堀代表が法廷で語ったところによれば、事件当時より信者は増えているという。健康食品の「真光元」も、天羽被告を含めた信者や提携のショップで、いまも販売されているという。

■関連リンク
真光元被害者の会
〒160-0022
東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5階
TEL:03-5368-1416
FAX:03-3341-4306

(記者:藤倉 善郎)

【関連記事】
「カルト・トピックス社会問題の現場から」をもっと読む
藤倉 善郎さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
カルト宗教

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080422-00000008-omn-soci