記事登録
2008年04月22日(火) 21時58分

光市判決、「主張の全否定はショック」と元弁護人オーマイニュース

 22日に死刑判決が出された山口県光市母子殺害事件差し戻し控訴審では、被告の元少年についた20人を超える弁護団の言動が常に注目されていた。強姦の計画性や殺意そのものを否定する主張は世論から猛烈に非難されたし、弁護団に死刑廃止論者が多かったことから「死刑廃止運動のために事件を利用しているだけ」と批判もされた。

 今回の判決を、事件に関わった弁護士はどう受け止めたのか。

 「判決は予想できたが、理由においては予想以上にきびしいものだった。内容自体がおかしい、信用できないと『全否定』。門前払いみたいな扱い。そういう意味でショックだった」

 同弁護団に差し戻し控訴審から参加し、約1年後の07年10月に解任された今枝仁弁護士は、オーマイニュースの取材に対し、こう語った。

■「裁判所が認めてくれる内容」を示せなかった

 「(裁判所の今回の判断は)弁護団が主張した内容自体おかしい、証言が変遷したこともおかしい、法医学的な鑑定もおかしい──。弁護団がこれまで訴えてきた客観的事実認定以前の段階で全否定された」

 今枝氏は、死刑判決自体は予想できたが、内容は予想以上に厳しいものだった、とする。その理由は、やはり被告の供述内容が不自然、不合理に過ぎると判断されたためだろうという。

 「弁護団としては、客観的証拠と被告の供述との整合性をもう少し見てもらいたかっただろう。だが、それ以前に結論が出されていた。お話にもならないという評価だった。弁護団も、そこまでむげに否定されるとは思わなかったのではないか」

 「元少年が言うことを裁判所が受け付けるような弁論構成が取れなかった。裁判所が認めてくれるような内容を提示できなかった。力不足ということだと思う」

 安田好弘弁護士を中心とする弁護団は、事実をすべて明らかにし、法医学鑑定を中心に事実関係の吟味を積み上げるべき、という方針を通してきた。被害者女性の首についた蒼白帯のかたちや角度から手の向きを検証し、元少年の殺意を否定したのは、そうした手法の1つだ。

 だが、今枝氏は、その弁護方針をめぐって弁護団内で度々対立し、最終的に元少年から弁護人を解任された。

 「私は、『殺意がなかった』とまで訴えてしまうのは、元少年がいまだに事実と向き合っていないと裁判所に解釈されるリスクがあると主張していた。弁護団に残っていたなら、その殺意の有無の部分は弱めるよう主張したと思う」

 今枝氏は、いまも元少年には強姦の計画性はなかったと考えているという。

■裁判所が認定した事実とは違うが

 同弁護団は、死刑廃止論者の集団とみられがちだが、今枝弁護士自身は死刑存置論者だ。死刑廃止論が強い弁護士界においては珍しい方と言える。だが、判決公判直前の4月10日に刊行された著書『なぜ僕は『悪魔』と呼ばれた少年を助けようとしたのか』(扶桑社)では、

 「僕が見る限りは、(弁護団に)死刑廃止運動について議論されるようなことはなかったし、そのような目的から弁護活動が左右されているということもまったくなかった」(42ページ)

と断言している。

 ただ、「事件を利用している」という批判や誤解が生じても仕方がない状況があったことは否定できない、ともいう。

 まず、死刑廃止論のリーダー的存在である安田氏が弁護団の中心であったことで誤解された。また、光市事件についての情報発信を一般メディアでは行わず、死刑廃止運動のためのメディアに限定したことなども憶測を生んだ。

 今枝氏は弁護団にいるあいだ、情報をシャットダウンする危険性を指摘し、ブログを立ち上げて独自に情報発信を始めた。ブログを書くことは認められていたが、弁護団内では軋轢(あつれき)が広がった。そのことも、同氏が弁護団を離れた理由の1つになった。

 弁護団にいるあいだは、脅迫状やいやがらせの電話が毎日のように入り、精神的なストレスは甚大だった。弁護団を離れてそれはなくなったが、結果として元少年を守れなかったことについては、「非常に悔しい思いをしている」という。

 著書には、ブログや本の出版は元少年との最後の約束だったとある。今枝氏から見た事件と、元少年の真実、どうして元少年が事件を起こしたのかについて、今枝氏の言葉で表現し、遺族や社会に知ってほしいと言われたという。

 今枝氏は、裁判所の認定事実と自分が知る事実は違うことにさらりと触れて、こう話す。

 「本を読んだ人からは、『事件の側面が分かった』という反応を頂いている。裁判所が認定した事実とは違うけれど、私が見た事実を(出版によって)世間に示せた。それは、(裁判所に)認定された以外の事実が受け入れられる土壌が社会に整いつつあるということかなと思う」

(記者:軸丸 靖子)

【関連記事】
軸丸 靖子さんの他の記事を読む
【関連キーワード】
光市
母子殺害事件
死刑判決

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080422-00000010-omn-soci