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2008年04月22日(火) 09時40分

加害者側についてもしっかりとした報道をオーマイニュース

 4月14日、山口県光市で起きた母子殺害事件に関する一連のテレビ報道について、テレビ局やラジオ局の自主規制機関にあたるBPO(放送倫理・番組向上機構)が意見表明を行いました。

 BPOは特に、広島高等裁判所で22日に判決が言い渡される「差し戻し控訴審」についての報道に注目し、「報道の多くは一方的、感情的で、公平性などを欠くものである」として、テレビ・ラジオ各社に報道についての検証と裁判報道の改善を求めているとのことです。

 広島高裁での判決が迫っている時期に、なぜ今、BPOがこのような意見を発表したのでしょうか? それは2007年11月下旬にさかのぼります。

 「『光市事件』報道を検証する会」が、BPOの倫理検証委員会に対し、一連の報道に関する「一方的な弁護士批判や誤解」を指摘。そして、「倫理的な問題点がないか検証を求められた」というのが出発点でした。

 BPOはその後、差し戻し控訴審に関するニュースを扱った番組を33本、7時間半分をチェックしました。

 そして、「作り手側が刑事裁判の仕組みを理解しないまま、加害者とその弁護団、被害者の遺族を対立的に描き、加害者側の異様さへの反発、遺族であるAさんへの共感や同調を視聴者に過剰に提示した」とした。

 そして、「一連の報道は、加害者の内面や裁判のくわしい中身を冷静に伝えておらず、知る権利に幅広く答えるどころか、『視聴者に誤解を与え、不利益をもたらす』という致命的欠陥があった」と結論付けていました。

 たしかにこの事件をめぐる被害者の言動や心境に同情すべき点は多かったと思います。とはいえ、当時、番組を見ていた私の目には、「明らかに被害者側からしか報道されていなかった」という印象が残っています。そして、被害者遺族は、一連の報道の中で「加害者は当時18歳を過ぎていた以上、死刑でもかまわない」と述べています。

 しかし、加害者が少年法によって裁かれているという事実を重く受け止めている私としては、たとえ、番組の関係者やメディアが望んでも、裁判所が死刑にできるとは限らないのではないかと考えています。

 少年法が適応される事件で死刑判決が出たケースはごくわずかしかありません。

 来年からは、一部の裁判に裁判員制度が導入されます。そうなると、この事件で展開されたような報道が続けば、肝心の判決を誤らせるのではないかと心配しています。ですから、どのようなメディアであっても、裁判報道は被害者側だけでなく、加害者側についてもきちんと報道していただきたい。

 裁判員になるかもしれないわれわれ視聴者には、裁判に参加するために必要な情報があります。責任ある報道を求めたいと思います。

(記者:河村 崇)

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