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2008年04月21日(月) 18時53分

【政論探求】「タスポ」に見るおぞましさ産経新聞

 天下の財務省としては、なんともつまらないことをやるものだ、と思っていたら、案の定、おかしな雲行きとなってきた。

 たばこの自動販売機に7月から全国で導入される成人識別認証カード「タスポ」である。申し込みが喫煙人口の8%程度にとどまっており、自動車運転免許証でも可能なように変更するらしい。

 「タスポ」がないと自販機でたばこを買えなくなる仕組みで、対面販売のコンビニ業界では売り上げ増が見込めるためホクホク顔だという。

 たばこ規制枠組み条約の発効にともない、未成年の購入を遮断しようというのが「タスポ」の狙いだ。写真つきで申し込むわずらわしさが浸透を妨げたらしい。だいたいが、たばこを買うのになぜ顔写真が必要なのか。

 自販機の改造にカネがかかるため零細な小売店は難色を示していたのだが、業界団体は財務省のたばこ塩事業室長に陳情、財務省がこれを受けて行政指導を行い、導入が決まった。

 業界が「お上」の威光にすがり、たばこという個人の嗜好分野に官が乗り出す異様さ。これは「官から民へ」の改革に真っ向から反する。

 それも、この「タスポ」はかざすだけで使えるICカードで、自販機にはアンテナが付けられ、NTTによって瞬時に情報が集約されるという高度なシステムである。関連企業8社ほどがかかわり、総事業費は1000億円近い。

 たかがたばこを買うことに、これほどの設備投資をして不思議に思わない感覚を疑う。それも、試験的に先行導入した鹿児島の実態を見ると、先輩や親からカードを借りて購入する未成年が増え、効果のほどは定かでないという。

 最初は無料だが再発行も1000円で済むから、なくしたことにして新たにカードをせしめ、ネット販売で小銭を稼ごうというヤカラも出かねない。

 「タスポ」が全面普及したら、だれが、いつ、どこで、どういう銘柄のたばこを買ったか、完璧に把握されることになる。そこまで個人情報を集約されてはたまらないが、そのデータはどう使われるのか。

 極限の管理社会の恐怖を描いたジョージ・オーウェルの「1984年」を思いださずにはいられない。

(客員編集委員 花岡信昭=ご意見などはブログ http://hanasan.iza.ne.jp/blog/ へどうぞ)

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