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2008年04月20日(日) 00時00分

有害サイト削除法案 賛否両論読売新聞


携帯電話のフィルタリングサービスの説明を受ける親子連れ(東京・ソフトバンク渋谷で)

 インターネットの有害情報から子供を守るための規制を巡って、議論が活発化してきた。自民党の青少年特別委員会(委員長=高市早苗・元少子化相)はサイトの有害性を国の基準に基づいて認定し、有害情報の削除などを業者に義務付ける新法制定を目指している。

 ただ、規制が厳しすぎると憲法が保障する「表現の自由」に触れる可能性や、国民のネット利用が委縮する懸念も指摘されている。ネット社会の青少年保護をどう進めていくべきか、大人たちの知恵が試されている。(経済部 山本貴徳、政治部 白石洋一)

「表現の自由」懸念も

 ネット上には、わいせつ画像や暴力的描写など、子供に見せたくない情報がはんらんしている。自民党の青少年特別委が策定した新法骨子案は、これらを「青少年有害情報」と位置付け、子供たちが閲覧できないようにするのが目的だ。

 法案によると、仕組みはこうだ。政府の審議会で何が「有害」か判断する基準を作り、これに基づいて、政府に登録した民間法人が有害サイトを認定し、サイトの管理者や、管理者と契約している接続業者(プロバイダー)へ通報し、改善を求める。

 サイト管理者は、サイトの内容を変更できる人や企業を指し、ブログを書いている個人も含まれる。

 有害と認定されたサイトの管理者は、〈1〉18歳以上しか見られない会員制サイトへ移行する〈2〉青少年が有害サイトに接続できないようにする「フィルタリング(選別)サービス」と連動させる〈3〉管理権限で有害情報を削除する——などのうち、いずれかの措置をとるよう求められる。

 接続業者にも「(サイト管理者との)契約に基づく有害情報の削除」などを義務付け、通報後も対応しなければ政府が是正命令を出す。従わない業者に罰金を科すこともできる。

 ただ、この法案通りになれば、18歳以上には有害でない情報も「青少年保護」を理由にネット上から削除されて見ることが出来なくなり、憲法が保障する「表現の自由」に抵触する可能性も指摘されている。

 法案とりまとめを急ぐ高市氏は、「有害情報の削除は(業者の)選択肢の一つであるうえ、契約に基づく削除なら『表現の自由』に抵触しない」との見解だが、異論も少なくない。

「有害」「健全」難しい線引き

 11日の自民党総務部会・違法有害情報対策プロジェクトチーム(PT)の会合では「有害かどうかの価値観は個人によって異なる」など、ネット情報の選別に政府が関与することに疑問の声が相次いだ。

 殺人、麻薬取り扱いなどの明確な違法行為と違って「健全」と「有害」の線引きは難しい。映画では、業界の自主規制団体「映倫」が「性、風俗」「暴力、残酷」などに分けた自主基準に基づき、3段階の年齢制限を設けている。通俗的なポルノ映画だけでなく、芸術性が高い作品でも、青少年には刺激が強過ぎると判断されれば、18歳未満は鑑賞すべきでないとする「R—18」などに指定している。

 総務部会PT委員長の山口俊一衆院議員はネット情報の有害性の判断は業界の自主規制に委ねるべきだとの考えだ。サイト運営会社などが8日設立した「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構」(理事長=堀部政男・一橋大名誉教授)は、山口氏らが自主規制機関に想定するものの一つだ。

規制、世論が後押し

 内閣府が昨年9月に実施した世論調査では、1700人余りの回答者の90・9%がネットの有害情報を規制すべきだと答えた。

 総務部会PTも対策の必要性については青少年特別委と同じ考えだ。早期に考えをまとめ、今国会への法案提出を目指す高市氏らと月末にも本格調整に入る。

 この問題では民主党も法案を検討中だ。「有害」情報の削除について「『表現の自由』との関係から特に慎重な検討が必要」などの議論が出ている。

 海外では、米国が法律で公立の学校や図書館にフィルタリングサービスを義務付け、ドイツや韓国が政治色の強い一部のサイトや性的刺激の強い情報などを「有害」とし、青少年の目に触れないようにする配慮をネット事業者らに義務付けている。しかし、青少年対策でネット情報に広範な規制をかけている先進国は少ない。

携帯は原則、接続制限

 携帯電話各社は今年に入り、総務省の要請を受けて、18歳未満の契約者はフィルタリングサービスに原則加入してもらうことにした。契約申込用紙の「加入」欄にあらかじめ○印を付け、親権者の申し出などがない限り自動的に加入するなどの仕組みだ。夏ごろ既存契約者にも適用する。

 背景には、携帯電話が犯罪の温床となっている実態がある。警察庁によると、出会い系サイトを通じて犯罪に巻き込まれた18歳未満の少女らは2006年に前年比8・7%増の1153人にのぼり、この96%が携帯電話からの接続だった。

 ただ、フィルタリングは会員同士が交流するSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)なども有害サイトに分類される場合が多く、サイト運営会社や利用者の不満が高まっている。総務省は、親や第三者機関が認めた場合は閲覧可能とする方針だ。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20080421nt0a.htm