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2008年04月20日(日) 00時00分

都会の弁護士が地方に次々移動、過払い利息で仕事多く朝日新聞

 「弁護士過疎」と呼ばれる地域に、地元出身でない弁護士が「Iターン」でやってくるケースが急増している。背景には、都会に弁護士が集中しすぎて就職難や過当競争になっている現状がある。公設事務所の任期が終わってもそのまま地元に残ったり、「依頼者と直接向き合いたい」と国内有数の大規模事務所から転出したりする弁護士も。「過疎だっただけに仕事は山のようにある」と、地方でサラ金の過払い利息16億円を取り戻した例もある。

  

 「借金問題を取り扱う弁護士が借金を整理——」。昨年5月、島根県浜田市などでこんなチラシが新聞に折り込まれた。東京に事務所がある弁護士が郵便と電話で依頼を受けるという内容だった。

 この弁護士によると、一昨年半ばから、九州や東北、中国地方で毎月6万枚ほど配布し、申し込みは月に数件。「東京近郊では弁護士が増えて相談が減ってきたので」と説明する。

 司法制度改革の一環として、かつて500人前後だった司法試験合格者は昨年、約2100人まで増えた。弁護士数は全国で約2万5千人(3月現在)で、10年前の約1.5倍。その6割が東京と大阪に集中している。

 都会では新人の就職難や過当競争が起こり、日本弁護士連合会によると、各地裁が受けた弁護士1人当たりの民事事件(06年)は青森209件、宮崎157件、鹿児島156件、島根152件に対し、都市部は東京13件、大阪28件と開きが出ている。

 そんななか、「弁護士過疎」の北海道や山陰、東北などの弁護士会には、この10年で会員数がほぼ倍増した所もある。

 島根県弁護士会では、この10年間で21人から40人に。増えた弁護士の約8割は東京や京都など県外出身者だ。

 「ほとんど弁護士がいなかったせいか、ふたを開けたらとんでもない無法地帯だった」。同弁護士会の田上(た・のうえ)尚志弁護士(39)は3年前、同県浜田市の公設事務所に福岡県から移ってきた。公設事務所は、日弁連が過疎解消のため運営費などを支援している。通常は数年勤務したら帰るが、田上さんは残って事務所を構えた。

 最も驚いたのが多重債務者の多さ。高齢者が、払う必要のない借金の利息を20〜30年間も払い続けている例が目立った。近隣市町村からも口コミで次々依頼が来るようになり、金融業者から取り戻した過払い利息の累計は先月24日までに16億1135万円になった。「最初は仕事があるか不安だったが、今は多すぎて対応できないほど」

 鳥取県弁護士会の曽我紀厚弁護士(35)は、日本の4大法律事務所といわれる東京の濱田松本法律事務所(現=森・濱田松本法律事務所)に約3年間いた。事務所には約200人の弁護士が働き、国際取引や事業再編など大規模案件を扱ってきた。

 だが、「大きい案件の一部を担うのではなく、直接依頼者と向き合う仕事がしたい」と、04年に母の実家がある鳥取に移った。まもなく会社分割や株主間の紛争処理など、東京での経験が生かせる案件が舞い込むようになった。「地元では扱える弁護士が少ない分野だった」と言う。

 仲間の弁護士を東京などから呼び寄せ、今は県内3カ所に弁護士8人で事務所を構える。「当たり前にやるだけで感謝され、やりがいも感じることができる」

 04年からコミック誌に連載され、昨年テレビドラマにもなった漫画「島根の弁護士」は、小泉八雲にあこがれ、縁もゆかりもない島根県にやってきた新米女性弁護士の奮闘を描いている。漫画の法律監修をしている同県弁護士会の錦織正二弁護士(61)は「地方では紛争処理だけでなく、問題を未然に防ぐ社会活動などに行政や住民と一緒にかかわり、弁護士としていろんな役割が担える。都会より何倍も忙しいが、その分やりがいも大きい。新人弁護士にもぜひ、目を向けてほしい」と話す。(玉置太郎、千葉正義)

http://www.asahi.com/kansai/kouiki/OSK200804190113.html