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2008年04月20日(日) 02時09分

大国の責任、自覚を 中国外相と会見して朝日新聞

 中国は昨秋の第17回共産党大会で第2期胡錦濤(フー・チンタオ)体制がスタートして半年。胡主席の5月の来日は以来初の外国訪問となる。楊潔(ヤン・チエ)チー外相は「中国元首として10年ぶり、新世紀初の訪日」と意義を強調した。

 だがそれ以上に注目されるのは3月のチベット騒乱事件後初の外国訪問という点ではないか。両国首脳の議論を国際社会も注視するだろう。

 日中関係は一昨年以降、好転したが、冷え込んだ国民感情はまだ脆弱(ぜいじゃく)な状態にある。ガス田開発問題に加え、冷凍ギョーザ、チベットなど事件が山積する中での首脳交流を疑問視する向きもあるが、そうではなかろう。むしろ問題があるからこそ率直な対話が重要なのではないか。

 楊外相がチベット問題について「内政問題であり、外国は干渉すべきでない」と語ったのは、一切の妥協をしない強硬姿勢を確認したものだ。

 楊外相は高村外相との会談で求められたダライ・ラマ14世との対話についても「我々は門戸を開いている。障害は(祖国分裂の活動を止めない)ダライ側にある」と突っぱね、「国際世論は法律に基づいてとった行動を支持している」と一歩も退かぬ決意を語った。

 こうした中国政府の対応に国際社会が懸念を深める現状は、民主化運動を鎮圧した89年の天安門事件後の状況に通ずるものがある。当時、西側各国は制裁に動き、中国経済は苦境に直面した。この時、途上国援助(ODA)をいち早く再開し、中国の国際社会復帰への道を開いたのは日本だった。

 当時と決定的に違うのは、中国の国際社会における存在感の大きさだ。今の強気の背景には経済発展に自信を深め、主要国は衝突を望まぬだろうとの読みがある。とくに景気後退の不安がある米国政府が強い対中非難を控えていることも視野に入れているのは間違いない。

 しかし21世紀の世界では、人権・人道問題は普遍的価値としてますます重視される流れにあり、場合によっては国家主権を超えることもある。国連で安保理常任理事国という位置を占めながら「内政に外国は口出しすべきでない」というだけでは、責任ある大国の対応とはいえまい。

 楊外相は中国が国内の人権問題の改善に取り組んでおり、各国外交官や外国メディアを騒乱後のチベットに入れて視察を実現したと強調したが、まだまだ不十分だ。

 チベットから外国人旅行者を追い出し、情報を封鎖し、被害者の立場を強調した情報を流すのみなので、中国の青年層に「外国メディアが真相をねじ曲げている」「理不尽な中国攻撃が行われている」といった反発や愛国心を喚起し、外国製品の不買運動まで起きている。ナショナリズムの異様な盛り上がりには不安を禁じ得ない。

 今年は中国の姿を大きく変えた改革開放政策の開始から30年の節目だ。その成果ともいえる8月の北京五輪は「一つの世界、一つの夢」をスローガンとする。

 世界中から祝福される五輪にするためにも、中国は国際社会の声に耳を傾ける柔軟な姿勢と、一層国を開く決意を見せてほしい。(加藤千洋編集委員) アサヒ・コムトップへ

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