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2008年04月18日(金) 15時09分

「命尊ぶ行政を」 製品事故の遺族ら、署名・訴え朝日新聞

 製品事故で我が子を失い、事故をめぐる監督官庁の対応に強い不信感を抱く。そんな遺族たちが「消費者重視の行政機関の設置を」と訴えている。政府は消費者行政を一元化し、泣き寝入りやたらい回しをなくす考えだが、官僚らの抵抗で難航も予想される。

事故原因究明の署名への協力を求める市川正子さん(右)=6日、川崎市のJR川崎駅前

 2年前の6月3日。東京都港区の公社住宅で、高校2年の市川大輔(ひろすけ)さん(当時16)がシンドラーエレベータ社製のエレベーターのかごの床と天井に挟まれて窒息死した。

 母親の正子さん(56)は今月6日、川崎市のJR川崎駅前でハンドマイクで呼びかけた。「まだ何一つ解決していません。署名を通じて、徹底的な原因究明の調査機関の設置を求めています」

 署名活動は1月に始まった。大輔さんがいた都立小山台高校野球部の関係者らがつくる「赤とんぼの会」が支援する。目標は10万人。この日、新たに約750人分が加わり、集めた数は4万人を超えた。三回忌の6月3日、シンドラー社や保守管理会社の刑事責任の有無を捜査する警視庁や、監督官庁の国土交通省などに提出する。

 正子さんは「原因調査で遺族は蚊帳の外」と話す。警視庁は「捜査中」と言い、詳しく教えてくれないという。国交省は事故後に専門家の作業チームをつくったが、今年2月の最終報告でも肝心の原因が解明されなかった。

 「これでは同じ事故がまた起きかねない。行政機関は、消費者、国民の命をどう考えているのでしょうか」

 東京都新宿区の上嶋(じょうしま)幸子さん(54)にもくすぶる思いがある。「経済産業省は製品の回収を命じる権限があるのに何もしていなかった。一体だれのために事故情報を抱え込んでいたのでしょう」

 05年11月27日。東京都港区のマンションで、幸子さんの次男で大学1年の浩幸さん(当時18)が死亡し、会社員の長男(27)が重症となった。安全装置が不正改造されたパロマ工業製のガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素(CO)中毒だった。

 その後、同様のCO中毒で85〜05年に計21人が死亡していたことが判明。経産省が消費生活用製品安全法に基づき、同社に問題製品の回収を命じたのは、最初の事故から20年以上過ぎた06年8月だった。

 幸子さんらは、同社と湯沸かし器を修理した業者、東京ガスの3社を相手に約2億円の損害賠償訴訟を起こしたが、事故情報を長年埋もれさせた経産省を相手に加えることも考えている。

 「経産省は元々、産業界の保護や育成をする役所。産業界と関係ないところで国民の生命や健康を真剣に考える役所ができてほしい」

 政府の有識者会議は、消費者行政を一元化する新組織のあり方について、「緊急時には『司令塔』として対策本部を設置し、各省庁に勧告などを行える」などと、強力な権限と責任を持たせる方向で議論を進めている。

 ただ、市民団体「消費者主役の新行政組織実現全国会議」事務局長の拝師徳彦弁護士は「権限を奪われる省庁や経済界の抵抗が予想される」と警戒する。「行政が迅速に行動していれば、製品事故で亡くならずに済んだ人もいるはず。議論の行方に関心を持ってほしい」と話す。(茂木克信) アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0418/TKY200804180198.html