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2008年04月18日(金) 17時04分

自前工場で、フリーターが熟練工に変身オーマイニュース

 「再チャレンジ受け皿企業」──。テクノスマイルは堂々こう宣言する。

 たとえば、高校卒業後に新卒採用で安定した大手メーカーなどに就職し、生産現場で正社員として働いていた人が2、3年で退職したとする。フリーターなどを経て、もう一度正社員として安定した仕事に再就職したいと思っても、現実には難しい。

 テクノスマイルでは、こうした人材を同社の正社員として採用し、顧客企業に派遣する。挨拶の仕方から、派遣前には徹底した教育を行う。

 「多様な選択肢を用意できる企業になりたい」

 馬見塚譲社長は語る。

 「再チャレンジ」のため、テクノスマイルは様々な仕組みを用意する。たとえばエクセレント・プロダクト・スタッフ(EPS)制度。意欲的な人材を選抜し、現場のキーマンに育成していく仕組みだ。資格取得を推進し、ステップアップによって賃金も上げていく。高度な技術やノウハウをもち、マネジメント能力もあれば、別の賃金体系で処遇する。

 テクノスマイルの社員が派遣先の大手企業で能力を評価され、そこの正社員になれるように支援もしている。そうした話があれば、いくら優秀な人材でも引き留めずに推薦状を付けて送り出す。もちろん、テクノスマイルはビジネスとして、移籍先から採用にかかった費用や育成費をもらう。テクノスマイルが育てた人材の紹介料という意味だ。

 自ら、自動車部品工場を運営している点も、業界ではあまり例がない。

 自前で工場を運営するのは、派遣期間が切れて戻ってきた社員が、次の派遣先に出向くまでの受け皿にするのが狙いだ。

 内装品を造っている若宮工場(福岡県若宮市)の工場長の吉村直樹氏は、元トラック運転手。派遣作業者として精密機械メーカーの現場に出ていたが、契約期間が終わり、テクノスマイルに戻ってきて、工場長に就任した。派遣先で磨いた技能が買われたためだ。吉村氏はEPS制度で選抜的な教育も受けている。

 「人を育てる」点で、テクノスマイルは同業他社との差別化を最も意識しているという。

 テクノスマイル社は2000年、トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)の子会社としてスタートした。景気の変動などの影響で、生産量が上下する工場では、その是非はさておき、全従業員を正社員にはできないのが現実だ。テクノスマイルはトヨタ九州の現場の仕事を請負う会社としてスタートした。

 しかし、資本的にトヨタの傘下では、リスクを取って新しいビジネスを展開しづらい。そのため完全に独立した。増資の際、役員や社員やベンチャーキャピタルが出資を引き受け、トヨタ系の出資比率は5%に落ちた。資本金は現在、1億5100万円。

 ただし、取締役全員はトヨタ本体の出身者である。社長の馬見塚譲氏はトヨタ本社の元財務部長。トヨタ九州の副社長を経て現職にある。

 研修所のある築上町も含め、北部九州には自動車産業の集積が加速する。福岡県内には、日産九州工場(苅田町)やトヨタ九州の完成車工場があるほか、福岡県境に接する大分県中津市にもダイハツ工業が最新鋭の完成車工場を稼動させたばかり。こうした動きに伴い、自動車部品メーカーも九州への移転を進めている。

 福岡県の麻生渡知事は「北部九州150万台構想」を掲げ、自動車産業の誘致に熱心だ。将来的には生産量が200万台程度までは拡大すると見られ、国内生産量の約1000万台の2割に相当する。

 トヨタの本社がある愛知県豊田市など三河地方では、長年の歴史があるため、人材面も含めて自動車産業の集積は大きい。その三河地方などから自動車産業が九州に移ってきている。

 製造業では品質維持のためには熟練工が必要となるが、一朝一夕では育たない。自動車産業の「新興地」九州は、人材面ではまだ層が薄い。だからこそ、テクノスマイルは、「育てる人材派遣」にビジネスチャンスがあると見て、事業を強化しているのだろう。

 人材派遣業に対して、もともと筆者はプラスのイメージを持っていなかった。しかし、テクノスマイルを取材するうち、考えが少し変わってきた。

 「価値観が多様化し、様々な雇用形態が生まれているなかで、こうした異色の戦略をもつ会社の存在価値は今後高まるのではないか」

 そんなふうに感じるようになったからだ。

 次回は、アジアに近い九州の立地を生かした、テクノスマイルの「国際展開」について報告したい。

(テクノスマイル全4回、つづく)

(記者:井上 久男)

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