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2008年04月18日(金) 10時18分

「劇場の盛り上がり」、往時しのばせオーマイニュース

 札幌市内の映画館「蠍座」での、故・深作欣二監督による往年のヤクザ映画4作品の上映が、4月14日(月)で終了。かつて、東映ヤクザ映画全盛期に社会現象となった、劇場における観客の盛り上がりが、わずかながらも現代に「復活」した。

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 4 作品は『仁義なき戦い』、『仁義なき戦い 広島死闘編』、『仁義の墓場』、そして『県警対組織暴力』(上映順)。いずれも深作監督が1970年代に撮った暴力団映画で、製作順に上映された。蠍座のスタンプ・カードは1本見ると1個のスタンプを押してもらえるが、今回の「深作フェア」については1本で2個という力の入りようだった。

 記者はこれら4作品をすべて蠍座で鑑賞した。4作品に共通することは、何といっても凄惨(せいさん)な暴力描写、めまぐるしいカメラ・ワーク、登場人物たちの狂おしい生きざま、そして、それらを支える独特の音楽と脚本である。

 単なる任侠(にんきょう)ものとは異なり、綿密な取材に裏づけられたドキュメンタリー・タッチのつくりで、ヤクザ映画というよりは、裏の戦後史をひもとく「歴史映画」。特に3本目『仁義の墓場』は、実在した主人公の関係者インタビューを冒頭で流すなど、ドキュメンタリー色の大変強い内容であった。

 こうした作風を支える音楽は、4作品すべてにおいて津島利章さんだ。また、脚本は『仁義の墓場』を除き、笠原和夫さんである。

 『仁義なき戦い』シリーズの音楽は、よくお笑い番組などで引用されることからも分かる通り、実に印象深く、血文字のような真っ赤なタイトル・バックや残虐な暴力シーンの持つ強烈なインパクトを特徴づけるためにも、なくてはならない存在だ。

 この個性的な音楽の使われ方は、『仁義なき戦い』シリーズのみならず、『仁義の墓場』や『県警対組織暴力』にも受け継がれ、その過激さにはますます磨きがかかっているということが、4作品を見比べるとよく分かる。津島さんの世界の深まりを楽しむには、今回のフェアは実に有効であった。

 一方、笠原さんの脚本は、「短いセリフで多くを語る」、「極端に下品な語彙(ごい)」という、2つの特徴を持っている。

 前者については、模範的な脚本のあり方と言えよう。普通であれば「お前らと一緒に酒は飲まん」などと言うような場面でも、ひとこと「そっちとは飲まん」で済ます(『仁義なき戦い 完結編』)。分かりきったことをくどくどと説明するセリフは皆無であり、うっかりするとストーリーが分からなるのではないかというほど無駄がない。これこそ理想的な脚本ではないだろうか。

 後者については、現代の生活やほかの映画でまず聞く機会のないような、新鮮なまでに下品なセリフのオンパレードである。「牛の糞(ふん)にも段々があるんじゃ」、「貧乏人の腹からひりだされおってからに」、「マラボケしとる」などなど……(性器を含む過激な表現も多数あるが、さすがにここでは紹介できない……)。その中には複数の作品で何度となく使われる表現もある。

 これら独特の表現が、『仁義なき』シリーズの世界観を作っていると言っても過言でない。4本目の『県警対組織暴力』の脚本も同じ笠原さんであることが、同作品をして、『仁義なき戦い』シリーズと同じ印象を持たせているゆえんである。こうして見比べてみると、今回のフェアに特にこの4作品が選ばれたのは、極めて自然なことであったと言えよう。

■映画と観客が一体となって盛り上がった時代

 さて、劇場は、4作品すべてを通じ、すこぶる盛り上がった。記者の目算によれば、50席程度のキャパシティーの中、4本とも30名以上の観客がいた。新作でもいわゆる「名画」でもない演目としては、なかなかの入りではないだろうか。

 また、血のほとばしる残酷な場面では会場がざわつき、ユーモアのある会話では、どっと笑いが起こった。特に4本目『県警対組織暴力』は、笠原氏独特のキレのあるユーモアが満載で、大変笑える作品で、劇場内は終始、爆笑の渦。また悲しいシーンでは「はあーっ」という溜め息が、会場を包んだ。

 そもそも東映ヤクザ映画といえば当時、映画だというのに客席から「(高倉)健さーん!」と声がかかり、劇場を後にした客はみな肩で風を切って歩くなどの社会現象を巻き起こしたと言われている。映画以外の娯楽が増えた昨今、観客のノリとフィルムとがそこまで一体化するような盛り上がりを見せることは、まずない。

 ところが、蠍座の「深作フェア」では、それに近い状態がわずかながらも作り出された。年配の客層が中心であったため、みな往時を思い出してのことかもしれない。が、現代が劇場を盛り上げない時代なのでは決してなく、例えば、今回の4作品などには、今でも客をどっと沸かせるだけの力があるのだと思い知らされた。

(記者:熊谷 直己)

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