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2008年04月17日(木) 11時35分

【法廷から】「104」に電話を計2602回かけ続けた男産経新聞

 30代後半になる男が、約半年で「104」に約2600回もの電話をかけ続けたのは、孤独と将来への不安からだった。業務妨害の罪に問われた男性被告(37)の初公判を16日、東京地裁で傍聴した。

 起訴状によると、被告は平成19年6月1日から11月17日までの間、計2602回にわたって、電話番号案内を利用するつもりがないのに「104」に電話をかけ続け、オペレーターに対し「切らないで、切らないで」などと言って対応させ、業務を妨害した。罪状認否で被告は起訴事実を認めた。

 弁護人「『104』にかけようと思ったきっかけは何ですか?」

 被告「正規で利用したところ、オペレーターとやりとりができたのがきっかけです」

 弁護人「あなたが『きれいな声ですね』と言うと、相手が『ありがとうございます』と言った?」

 被告「そうです」

 犯行の背景には孤独と将来への不安があったようだ。

 弁護人「どんな目的で電話した?」

 被告「短期の仕事をしていて、継続的な人間関係が築けず寂しい気持ちだったのと、30代後半になって人生の先行きに不安を感じた。酒を多めに飲んだとき、その感情が増幅されてかけてしまった」

 検察側の冒頭陳述によると、被告は関西の有名私大を卒業後、塾講師や警備員など職を転々としていた。情状証人として証言台に立った被告の父親は、次のように証言している。

 弁護人「事件の根本的な原因はどこにあると思いますか?」

 父親「定職に就いていなかったことにあると思う」

 弁護人「今後、同じことを繰り返さないために何が必要と思いますか?」

 父親「定職についてもらいたい。(そうしないと)生活のリズムが安定しない」
 
 被告はこの点、次のように述べた。

 弁護人「なぜ仕事が長続きしなかった?」

 被告「勤めることに対して甘く考えていた。辞めてもバイトで食いつなげると考えていた」

 検察側の証拠によると、オペレーターから「警察に相談します」と言われると、被告は「やめる」と一度は約束するが、すぐに繰り返した。また、被告は「クレームだから聞け」などと言って1分間に3、4回電話をかける行為を2時間続けたこともあったという。

 検察官「(オペレーターから)冷たくあしらわれていても楽しかった?」

 被告「会話をしたい気持ちがあった」

 検察官「嫌がられるのが楽しくてかけていた?」

 被告「違います」

 裁判官がさらに原因を追及した。

 裁判官「酒を飲み過ぎたって、『104』に電話をかけないでしょ」

 被告「はい」

 裁判官「別の原因があったということでは?」

 被告は「う…」

 裁判官「嫌がる女性と話すのがやみつきになっていたのでは?」

 被告「違います」

 裁判官「なぜこんな回数になったの?」

 被告「寂しさを埋めたかった」

 裁判官「嫌がられて寂しさが埋まる?」

 被告「翌日には後悔がありました」

 裁判官「なぜ5、6カ月もやった?」

 被告「少しでも人と話したかった」

 裁判官「(人と話したくても)ゆがんだ形でやったらダメだし、相手が嫌がっていたら成り立たない」

 被告「そうです」

 仕事が長続きしない点についても追及した。

 裁判官「なぜ仕事を我慢できないの?」

 被告「わがままなところがあって、気に入らないとすぐに辞めていた」

 裁判官「上司とけんかでもした?」

 被告「自分の中で違うと思ったらすぐに辞めていた」

 裁判官「継続的な友人関係を築きたいなら我慢が必要。一歩譲る部分があまりにもないのが原因だったのでは?」

 被告「はい」

 最後に、裁判官は励ましの言葉をかけた。

 裁判官「法廷でのやりとりや身なりを見ると、仕事が続かないようには見えない。がんばってください」

 被告「はい」

 被告人質問で被告は30歳まで教員採用試験を受け続けていたが「正規採用されなかった」と述べた。このことも仕事が続かない原因になっていたのかもしれないが、40歳に近い男が夜な夜な「104」にいたずら電話をかける姿を想像すると、なんともせつない。教員になるという希望を失っても、自分を見失わず、真っすぐ生きてほしいものだ。

 検察側は懲役1年6月を求刑。裁判官は懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。(末崎光喜)

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