記事登録
2008年04月17日(木) 00時00分

娘の「命宿る言葉」母親が手記に JR脱線で脳機能障害朝日新聞

 JR宝塚線脱線事故で意識不明の重体だった兵庫県西宮市の鈴木順子さん(33)の回復の軌跡を、母親のもも子さん(60)が手記にまとめた。タイトルは「ありがとう わが娘・順子、JR福知山線事故からのテイク・オフ」(PHP研究所)。脳に外傷を負い、ゆっくりとしか話せない順子さんの言葉に、もも子さんは不思議な力を感じている。

鈴木順子さん(左)の回復の記録をつづった本を出版した母親のもも子さん=兵庫県西宮市、山本裕之撮影

 「皆がいるから生きていける。木も草も酸素をつくってくれる。酸素に生かされていることを人間はわかっていないと思う」。順子さんは一言ずつ確かめるように話す。

 もも子さんが「なんで酸素にこだわるの」と尋ねると、「二酸化炭素が増えて、いつか痛い目にあうと思うから」。それが地球温暖化のことだと、もも子さんは気づく。

 順子さんは3年前、大阪に向かう途中で事故に巻き込まれた。マンションに激突した2両目に5時間。救助隊、救急医たちが、呼吸の止まった順子さんの命をつないだ。高次脳機能障害と診断され、今でも言語や思考、記憶などに障害が起きる状態だ。

 もも子さんが娘の言葉に不思議な力を感じるようになったのは1年ほど前からだ。

 「個性を大事にしないのが差別やいじめなんや」「自分のところの社会や文化しか認められんから戦争するんや」

 関心は人生観や地球環境、社会問題などに広がった。もも子さんは「本質を突く言葉の力を持っている。天の声が聞こえるのかしら」。

 寝たきりの状態から5カ月後に「おかあさん」と初めて言葉を発したこと、325日ぶりに退院し、画用紙に「ありがとう」と文字を書いたこと、手すりにつかまりながら、歩けるようになったこと。手記には順子さんの回復ぶりとともに、様々な言葉が克明につづられている。

 もも子さんは「3年前には戻れない。でも、この子が手元に戻り、また子育てができる。だから今、幸せを感じられるんです」と話した。(小池淳)

http://www.asahi.com/kansai/entertainment/news/OSK200804170068.html