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2008年04月15日(火) 00時00分

精神鑑定読売新聞

「控訴審で再度必要」
彩香ちゃんが転落した大沢橋の下の藤琴川で現場検証する捜査員(2006年7月23日撮影)

 公判では、畠山鈴香被告(35)の心理状態を解明するため、審理と並行して、精神鑑定が行われた。しかし、判決は、長女彩香ちゃん(当時9歳)の死をめぐっては、鑑定結果を採用しなかった。

 精神鑑定を行った生協さくら病院(青森市)の西脇巽医師は公判で、「子供を殺害するとき、まず無理心中を考えるのが常識」と証言。鈴香被告が彩香ちゃんを藤里町の大沢橋に連れて行ったのは、「無理心中するつもりだった」と、検察側も、弁護側も主張していない新たな構図を描いた。

 西脇医師は、鈴香被告が過去に自殺を考えていたことがあったことを挙げ、鈴香被告は、母が被告を愛情で縛り付けており、「彩香ちゃんを残して勝手に死ぬことは許されないと考えた」と指摘した。

 しかし、この鑑定結果について、鈴香被告は「違うんじゃないかな」と否定。判決も、無理心中を前提としている点に疑問を呈し、「被告が彩香ちゃんを道連れに自殺しようと考えた形跡は全く見当たらない」と退けた。

 また、精神鑑定は、鈴香被告が彩香ちゃんを川に落とした自責の念にかられ、落下の直前直後の数秒間を思い出せない「健忘」になったと認め、健忘を合理化するため、橋に行った記憶も失ったと分析した。しかし、判決は、鈴香被告の法廷証言などから「彩香ちゃんを転落させた瞬間の細部の状況はよく覚えていないという程度のものに過ぎない」として「健忘」を否定した。

     ◎

 鈴香被告は、彩香ちゃんの死後、情報提供を求めるチラシを配り、警察に事件性を訴え、捜査を要請した。犯行の発覚につながりかねない、この不可解な行動の根拠として、判決が精神鑑定の代わりに採用したのが、検察側が起訴前に行った鑑定だった。

 起訴前鑑定は、鈴香被告が「(彩香ちゃんを落とした)記憶を自覚的に抑圧した」とし、「記憶の抑圧が、瞬間的かつ完全に生じたとは考えられず、彩香ちゃんの死の事件性を主張する言動と一体となって強化された」と分析した。

 判決は、この鑑定結果について「被告の一見不可解と思われる行動を精神医学的見地からそれなりに合理的に説明している」と信用性を認め、鈴香被告は「記憶の抑圧を深め、彩香ちゃんの件は(第三者が起こした)事件だと思い込むようになった」と結論付けた。

     ◎

 西脇医師は公判で、鈴香被告との面接は3回、計10時間50分だったことを明らかにし、「被告とじっくりと話し合う時間がなかった」と述べた。通常は1か月ほど被告を入院させ、面接のほか、別の患者らとの人間関係などから多面的に観察するという。

 これに対し、福島章・上智大名誉教授(犯罪心理学)は、鈴香被告について、周囲からの暴力などつらい経験が原因で自分をコントロールできなくなり、その場その場で言動が変わり本人の自覚が乏しいという特徴から、自我が変わりやすい「解離性障害」の可能性が高いと分析。そして、こう主張する。

 「控訴審で再度、精神鑑定を行い、解離性障害に対する臨床経験の豊富な専門医に十分な時間や環境を与えて解明してもらう必要がある。それが被告人の治療にもつながる」

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/akita/feature/akita1206076020175_02/news/20080415-OYT8T00061.htm