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2008年04月13日(日) 12時02分

どうする、JR福知山線事故現場 負傷者ら討論会開催へ朝日新聞

 JR宝塚線(福知山線)脱線事故の現場をどうするのか。3年がたとうとしているいま、被害者だけでなく社会全体で考えよう、という動きが始まった。電車が衝突した分譲マンションはJR西日本が買い取り無人になったが、今後の方針は決まっていない。負傷者らは27日、誰でも参加し、議論できる「ワークショップ」を兵庫県尼崎市で開く。

事故現場には、電車が衝突したマンションがそのまま残っている=12日午後、兵庫県尼崎市、本社ヘリから、荒井昌明撮影

 「夫は『いってきます』と家を出て、そのまま帰ってこなかった。まだ、ふっと帰ってくるのではという気持ちが抜けない。現場をどうこうするという気持ちには、まだなれない」

 事故現場の9階建て分譲マンション「エフュージョン尼崎」。入り口付近や敷地北側に設けられた献花台には、現在もJR西日本の社員と警備員が詰める。この現場を「夫に会える場所」と考え、月命日などに必ず訪れる女性(48)は、しばらく今のままにしてほしいと考える。

 事故を風化させたくないという思いから、遺族や負傷者の中には現場を保存すべきだとの声もある。一方で、「更地にして、お参りしやすい慰霊碑を作ってほしい」「忘れたいので壊してほしい」といった意見もJR西日本に寄せられている。遺族らで作る「4・25ネットワーク」は、現場の処置は遺族や負傷者と協議するよう求めている。

 同社広報部は「被害者や周辺住民の意向を伺いつつ、慎重に検討を進めたい」とし、現時点では具体的な計画を打ち出していない。

 こうした中、事故で負傷した同県西宮市の会社員坂井信行さん(42)ら約10人が動き始めた。坂井さんは、遺族や負傷者だけに説明会が開かれたり、事故の資料を展示したJR西日本の研修施設が被害者だけに公開されたりするたびに違和感を感じていた。

 誰が遭ってもおかしくなかった事故。現場は当事者だけのものにならないよう、社会全体で考えていくべきではないか——。そんな考えを持つようになった時、01年9月に米国で起きた「9・11テロ」で崩壊した世界貿易センタービルの跡地の利用方法をめぐり、4千人以上の市民が参加したワークショップが開かれたことを知った。「現場の今後」というテーマなら議論しやすいと考え、今年3月からワークショップ開設に向けた賛同者を募り始めた。

 ワークショップは27日の尼崎市を皮切りに、宝塚線沿線の伊丹、川西、宝塚、三田などの各市で開く予定。50人程度の参加者に事故が起きた背景や現場の跡地利用について考えてもらい、将来的には、それまでの参加者が一堂に集まる大規模なワークショップの開催も目指す。

 「結論を急ぐつもりはない。ご遺族の方も考えられるようになる時に向け、一般の方も含めて皆で事故のことを考え続けることに意味があると思う」と坂井さん。議論の結果は何らかの形で公表することにしている。

 ワークショップへの参加には、ファクス(020・4624・5228)かEメール(4.25remember@gmail.com)で事前の申し込みが必要。問い合わせは実行委員(090・8825・0425)。(千葉雄高) アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0412/OSK200804120121.html