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2008年04月12日(土) 21時02分

ラサ騒乱1カ月 「国際社会」と「民族意識」に板挟み朝日新聞

 【北京=坂尻信義、峯村健司】中国チベット自治区ラサでの騒乱から、14日で1カ月。胡錦濤(フーチンタオ)指導部が、ダライ・ラマ14世との対話を迫る「国際社会」と、反発する「民族意識」との板挟みになっている。騒乱への対応が国際世論の反発を招き、国威発揚を狙った北京五輪が共産党一党支配の足元まで揺るがしかねない雲行きだ。

  

 胡主席は12日、海南省博鰲でラッド豪首相と会談し、ダライ・ラマとの対話を求めていた首相に厳しい言葉で反論した。「ダライ一派との闘争は、民族や宗教の問題ではない。国家の統一を守るか、あるいは祖国の分裂を許すかという問題だ」

 発端はラサの僧侶らによる激しい抗議活動だった。中国当局はこれまでに、騒乱で市民18人と警官2人が死亡したと公表。「すでに沈静化した」として、3月末には一部外国メディアと外交官15人に相次いでラサを公開したが、依然として騒乱地域への自由な取材は許していない。

 チベット亡命政府は約140人が死亡したと発表しており、大きな隔たりは残ったままだ。四川や甘粛省では、まだ騒乱が続いているとみられ、中国当局が厳しい取り締まりを続けている模様だ。

 これまで中国は北京五輪を「中華民族100年の待望」と呼び、国威発揚の大きな舞台とみなしてきた。ところが、チベット騒乱を鎮圧した対応に批判が高まり、胡主席自らが臨み、開始を宣言した北京五輪の聖火リレーが、海外で激しい抗議行動に遭う最悪の展開になった。

 中国政府は、いかなる他国の干渉も許さない姿勢を強調。国際社会の非難を和らげるキャンペーンにも力を入れ始めた。国家公文書局は7日、「史実は詭弁(きべん)にまさる」と題した文書を公表し、「チベットは700年以上、中国の中央政府が管轄してきた」と強調。党中央統一戦線工作部も9日、79年以降にダライ・ラマ14世の特使と6回接触した、として対話の門戸を閉ざしていないと主張した。中央テレビは連日、中国政府のチベットへの貢献を特集する番組を放映している。

 中国メディアは、聖火リレーが「国際社会から歓迎されている」(新華社通信)と報道。抗議者の大半が地元市民やNGOであることについては触れず、チベット独立勢力の仕業であるとしている。パリで抗議者からトーチを守り抜いた車いすの聖火ランナー・金晶さん(27)は「命をかけて聖火を守った」(人民日報)と英雄扱いだ。

 背景には、対中批判に反発する国内世論の高まりがある。CNNやBBCなど欧米メディアへの抗議署名を呼びかけた大手ニュースサイト・新浪網には「偉大な中華民族を馬鹿にしている」といった書き込みが絶えない。

 他の少数民族への「ドミノ現象」も不安の種だ。中国公安省は10日、新疆ウイグル自治区の独立派が北京五輪テロを計画していたとして容疑者45人を逮捕したと発表した。 中国当局はチベット騒乱以降、ウイグル独立派の取り締まりを強めて悪質性を強調しており、この時期の一斉逮捕には他地域への波及を食い止めたい意図が透けて見える。抗議行動の連鎖反応は、貧困やインフレ、幹部の腐敗に不満を募らせる農民や労働者の蜂起も誘発しかねない。 アサヒ・コムトップへ

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