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2008年04月10日(木) 19時56分

映画「靖国」問題、騒動の背景は?産経新聞

 映画「靖国 YASUKUNI」の公開を予定していた東京、大阪の映画館が次々と上映を中止した問題は、関係者の誰もが予想しなかった方向と速度で展開した。どうしてこんな騒動になったのか、その経緯を検証する。(藤井克郎)

 「昼間から大音量で訴えられ、感覚的に恐怖を感じた。上映中止という異例の措置をとらざるを得なかった。苦渋の選択です」
 右翼団体の街宣車に計3回乗り付けられ、上映中止を決めた銀座シネパトスを運営するヒューマックスシネマの担当者は言う。
 「靖国」は銀座シネパトスをはじめ渋谷のQ−AXシネマ、新宿のバルト9、シネマート六本木の東京4館とシネマート心斎橋の大阪1館の計5館で4月12日に封切られ、その後、順次全国で公開されることになっていた。Q−AXシネマの担当者は「うちは不特定多数の方が大勢いらっしゃる商業施設ですし、この環境で上映するのは難しいと判断した」と話す。
 ただ街宣車が抗議に来たのはシネパトスだけ。配給側は地元警察を交えて何度も話し合ったが、最終的に3月31日に5館とも上映中止が決まった。
 騒動の発端は、この映画に文化庁所管の芸術文化振興基金から助成金が出ていたことに昨年末、週刊誌が「反日映画が日本の助成金で作られた」とする記事を掲載したこと。これを目にした自民党の稲田朋美衆院議員が、「検証したいので映画を見たい」と文化庁に申し入れた。今年2月12日のことだった。
 「助成に適正かどうかを見たかっただけで、騒ぎにするという意図は全くなかった」と稲田議員の事務所では説明する。結局、文化庁と配給側が協議を重ねた結果、3月12日に全国会議員を対象に試写会を開くことになった。
 ところが試写会を控えた9日、朝日新聞に「事前試写」の見出しで記事が掲載され、騒ぎが大きくなる。直後にバルト9が降りることになり、ほかの映画館も続いた。
 現在は新たに上映が決まった劇場も含めて20館以上で5月以降、公開される見込み。配給協力・宣伝を請け負うアルゴ・ピクチャーズでは「中止を決めた劇場も頑張った結果だし、降りた劇場は悪い、これからかける劇場はいい、という図式はつくりたくない。早く普通に映画を見る環境に戻したい」と話している。

 ■「靖国 YASUKUNI」 中国出身で日本在住19年の李纓監督が10年の歳月をかけて取り組んだ作品。8月15日の終戦の日、靖国神社を訪れる人たちが巻き起こす喧噪(けんそう)と、靖国神社のご神体「靖国刀」の伝統を受け継ぐ老刀匠の穏やかな日常を描く。ナレーションを一切入れず、見た人の判断に委ねる内容になっている。香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。

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