記事登録
2008年04月08日(火) 00時00分

(22)「作ってよかった」うれし涙読売新聞

『ミナの笑顔』の発表記者会見にのぞむ鈴木さん(左)とラットさん(中央)(1992年12月10日撮影)(ACCU提供)

 「羊が1匹、2匹……」。鈴木伸一さん(74)(杉並アニメーションミュージアム館長)は天井を眺めながら、ふとんの中で何度も寝返りを打った。1992年12月9日の深夜。自らが監督した識字啓発アニメ『ミナの笑顔』の発表記者会見を翌日に控え、緊張で寝つけなかったのだ。

 寝ぼけ眼で訪れたユネスコ・アジア文化センター(新宿区)。会見場には数十人の報道陣らがいた。「世界に8億いる読み書きできない人々に、このアニメを見てほしい」。鈴木さんは熱意を込めて訴えた。記者の中には、メモを取りながら大きくうなずく人も。それを見た時、ようやく安堵(あんど)することができた。横に座ったラットさん(マレーシアの漫画家)も、同じ心境だったらしい。緊張が消え、表情が明るくなっていた。

 13年後の2005年、もっとうれしいことがあった。タイ北部のランパンという村を訪問した時のこと。学校の教室で『ミナの笑顔』を見つめる女性たちの表情は真剣そのものだった。「私たちもミナのように学びたい」。通訳を介して、女性たちがそう話していたことを聞いた瞬間、不意に涙がこぼれた。「ミナを作ってよかった、本当によかった」

 鈴木さんは4月から、文星芸術大(宇都宮市)の客員教授になった。新設されたアニメーション専攻課程の学生たちに、デッサンや描き方を教える。「楽しませるだけがアニメの役割ではない。人を救うことだってできる」。14日の最初の授業でさっそく、学生たちにそう語りかけるつもりだ。

 ■ミナシリーズ■ 水質保全を訴える『ミナの村と川』(1997年)、森林保護の『ミナの村と森』(2000年)、ごみの分別を呼びかける『ミナの村のごみ騒動』(04年)と続く。5作目は『ミナの防災村作り』で今月中旬、DVDで発売される。各巻2500円。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231203958795871_02/news/20080408-OYT8T00131.htm