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2008年04月07日(月) 20時05分

「デジタルの利益が紙抜く」 日経新聞「成長神話」の危うさJ-CASTニュース

 世界で初めて「デジタル」の利益が「紙」の利益を逆転——経済誌が大々的にこう報じた日経新聞。いち早く「デジタル」に舵を切り、構造不況の新聞業界にあって、未来はとてつもなく明るい。こんな風に見えるが、内実はそう胸を張れるものではない。2007年12月期連結決算で、新聞事業の利益が半分近く減ったのが「逆転」の主な要因だ。日経新聞もまた「新聞総崩れ」の渦中にあるのは間違いなさそうだ。

■「デジタル」と「紙」をうまく連動?

  「新聞総崩れの中、なおも新たな読者を獲得し、部数増を続ける日経。しかも情報サービス事業が育ち、世界で初めて『デジタル』の利益が『紙』を逆転、ライバル社は驚くばかりだ」

 こういう書き出しで始まるのは、「東洋経済」(2008年4月12日号)の特集記事「『日経新聞』を読む人 読まない人」である。

 同記事によれば、06年までに日経新聞の単紙読者率(日経だけを読む人の比率)は65.9%まで上昇。他紙はニュースサイトで朝刊の主要記事が読めるのに対し、日経は7割近くの記事は無料で見ることができないため、多くのビジネスマンは日経を買う。しかも、有料で記事を読んでもらうデータベース事業は好調。「デジタル」と「紙」をうまく連動させる新たな「新聞ビジネス」が日経にはある、といった内容になっている。

 しかし、07年12月期のデジタルメディア事業の売上282億円といった数字が踊るのに対し、「世界で初めて『デジタル』の利益が『紙』の利益を逆転」という「大ニュース」を具体的に裏付けるような数字はなぜか出てない。

 日経新聞社によれば、「『デジタル』の利益が『紙』を逆転」したのは、同社の2007年12月期連結決算。新聞の販売収入と広告収入が柱となる新聞事業の営業利益が135億円(営業利益全体の35.4%)だったのに対し、日経新聞デジタルメディア、日経マーケティング、QUICKなどのグループ会社で構成する情報関連事業(デジタル事業)が172億円(同45.0%)だった。

 金融庁のEDINETに提出されている同社の有価証券報告書に掲載された「事業の状況」にもこれと同じ数字が並んでいるが、「東洋経済」が報じた日経の姿とは、随分違った姿が見えてくる。

■広告出稿の減少が響いて、営業利益43.2%減

 日経の06年12月期の業績から見てみると、新聞事業は発行部数が1万部増えるなどして、売上高2337億円(前年同期比1.1%減)、営業利益は238億円(同比6.4%増)。デジタル事業も「日経テレコン21」のコンテンツ拡充、「NIKKEI NET」の新規広告が好調で、売上高759億円(前年同期比2.7%増)、営業利益173億円(同比25.1%増)だった。

 しかし、翌07年になると状況は一変。新聞事業は、外資系IT企業の日本離れや国内電機メーカーの低迷による広告出稿の減少が響いて、売上高は2291億円(前年同期比2.0%減)、営業利益に至っては同比43.2%減の135億円と「大不振」が浮き彫りになっている。これに対し、デジタル事業は営業利益172億円(同比0.4%減)で、これもわずかながらの落ち込みだ。確かに「デジタル」の利益が「紙」の利益を抜いたのは事実だが、言ってみれば新聞事業の「自滅」による「逆転」だったことになる。

 ちなみに、J-CASTニュースが同社に「逆転の主な理由」を聞いたところ、

  「新聞事業の広告収入の減少などで前の期に比べて減益となったのに対し、デジタル部門は順調に収益を拡大したためです」(経営企画室広報グループ)

と答えている。

 広告収入の減少にあえぐ新聞業界だが、日経もまた2007年は苦しんだということになりそうだ。「デジタル」が「紙」を「逆転」したのも、「本家」である新聞の不振が主な要因で、「世界で初めて」と銘打つ程のものではなかったようだ。


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