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2008年04月04日(金) 00時00分

(21)異なる宗教服装めぐり激論読売新聞

ピンクのリボンを首に付けたミナ(『ミナの笑顔』より)((C)ACCU)

 「わが国では女性がへジャブをかぶるのは当たり前です」。マレーシアの人気漫画家、ラットさんは腕組みしながら表情を曇らせる。

 1992年、識字啓発アニメ『ミナの笑顔』の制作会議。ユネスコ・アジア文化センター(新宿区)の一室を重苦しい空気が包んだ。へジャブとは、イスラム教徒の女性が頭にかぶるスカーフのこと。ラットさんは主人公の女性にこれをかぶせると譲らない。大まかに描いた絵コンテ約60枚には、すでにへジャブが書き連ねてあった。

 「多くの国の人にみてもらうためのアニメです。宗教色を出しては受け入れられません」。田島伸二さん(60)(元同センター職員)が色をなして迫る。それでも首を横に振るだけのラットさん。「まあまあ、お二人とも……」。監督の鈴木伸一さん(74)(現・杉並アニメーションミュージアム館長)は、なだめるのが精いっぱいだった。

 宗教だけでなく、服装、食べ物、町並み……ありとあらゆる文化が異なるのがアジア。鈴木さんは、どの地域にも等しく受け入れられるドラマを作ることの難しさを痛感する。

 「わかった。みんなが字を読めるようになるためなら」。ラットさんが「うん」と言ったのは、2日後。ぽりぽりと頭をかきながら、田島さんに握手を求めた。

 ミナの服装は首にリボンをまくという案で落ち着いた。この奇抜なファッションに決まったのは、どの国の宗教にもないいでたちだったから。この後、ミナがリボンを付けた絵が回覧され、すべての国のユネスコ関係者がOKを出す。

 セーラー服のような着こなしには、深遠な訳が潜んでいたのだった。

 ■ラットさん■ 1951年生まれ。本名モハマッド・ノール・カリッド。東南アジアを代表する漫画家。30年以上、マレーシアの大手英字紙で一コマの時事風刺漫画を連載。代表作は自らの少年時代を描いた『カンポンのガキ大将』(晶文社)。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231203958795871_02/news/20080404-OYT8T00125.htm