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2008年04月03日(木) 21時37分

「苦しまずに死ねる」ネットに情報氾濫 相次ぐ硫化水素自殺産経新聞

 複数の洗剤や入浴剤などを混ぜて有毒な硫化水素を発生させ、中毒死する自殺が相次いでいる。「苦しまずに死ねる」−。インターネット上にはこうした文言とともに具体的な方法が紹介され、今年に入ってからだけでも、10人以上が自殺した。東京都内で自殺未遂をした男性も「ネットで自殺方法を調べた」と話しているという。有毒ガスが外部に漏れ出すなどして、家族や近隣住民らが巻き込まれるケースもあり、専門家は「危険な方法」と警鐘を鳴らしている。(高久清史)

 ■激しい頭痛

 「硫黄みたいなにおい。何かしら?」
 2月18日朝、東京都渋谷区の3階建てアパート。3階に住むアパート所有者の女性は激しい頭痛で目が覚め、異臭に気付いた。のどに走る痛み。異臭は下の階から漂ってきていた。
 応答のない1階の鍵を開け、警察官らと部屋に入った。「濃密な異臭がもわっと飛び出してきた」。居間では男性(27)がソファで倒れ、床に複数の鍋が置かれていた。洗剤などの容器も散乱していた。有毒ガスだと確信したとき、隣の警察官が叫んだ。「すぐに出てください」
 警視庁渋谷署によると、男性は硫化水素を発生させて自殺を図っていた。女性は3階に駆け上がり、異臭に泣き声を上げる生後4カ月の長男と、1歳の長女を連れて逃げ出した。3人は軽症だったが、女性は「生まれてきたばかりの子供を巻き込み、小さな肺に有毒ガスを吸わせた」と憤る。
 約2週間後、一命を取り留めた男性が謝罪に訪れ、自殺未遂の様子を説明したという。
 「確実に死ねるようきっちりと洗剤を計量し、バスルームで調合した。方法はインターネットで調べた」

 ■練炭より確実

 硫化水素は卵の腐ったような刺激臭を発する有毒ガス。頭痛や吐き気、呼吸困難などの症状が表れる。高濃度の場合には数呼吸で失神、即死する。
 あるホームページではこうした硫化水素の毒性を紹介し、「練炭自殺より、苦しまずに確実に死ねる」と宣伝。さらに、部屋の通気口などを粘着テープでふさいだり、「ガス発生中。入るな」の張り紙をしたりするなどの具体的な手順も記載している。
 インターネットの有害情報を監視する民間団体には今年2月14、15日、「硫化水素を使った自殺に関する書き込みがある」という情報提供が2件相次いだ。この時期から自殺が急増していることなどから、団体関係者は「2月ごろからネット上で書き込みが増え、情報が広まった可能性もある」と話している。
 昭和大薬学部の吉田武美教授(毒物学)は「一般に流通する商品で硫化水素は発生させられるが、極めて危険な行為。高濃度になると、嗅覚(きゅうかく)がまひしてしまうため、家族らを巻き込む2次被害の恐れがある」と警告する。

 ■メーカー困惑

 実際、渋谷区の自殺未遂のケースのように、巻き添えの被害が後を絶たない。
 神戸市北区の男性会社員(64)方の浴室では3月27日、アルバイトの二男(27)が「有毒ガス発生。開けるな」と張り紙をして自殺したが、会社員が意識不明の重体となったほか、妻や長男も有毒ガスを吸い込んで治療を受けた。昨年7月に神奈川県秦野市で男子大学生が自殺したケースでは、家族2人が巻き添えで死亡しただけでなく、救急隊員や警察官も目などの痛みを訴えた。
 インターネット上で、硫化水素の原料として名指しされている洗剤の製造元は「自殺の道具に使われ、非常に困惑している。商品に『これと混ぜたら危険』と表示すれば、逆に自殺を促す結果になる恐れもある」と話している。

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