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2008年04月02日(水) 01時30分

「靖国」上映中止 「表現の自由」を守らねば(4月2日付・読売社説)読売新聞

 憲法が保障する「表現の自由」及び「言論の自由」は、民主主義社会の根幹をなすものだ。どのような政治的なメッセージが含まれているにせよ、左右を問わず最大限に尊重されなければならない。

 靖国神社をテーマにした日中合作のドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」が、東京と大阪の五つの映画館で、上映中止となった。

 12日から上映を予定していた東京都内のある映画館では、街宣車による抗議行動を受けたり、上映中止を求める電話が相次いだりした。「近隣の劇場や商業施設に迷惑が及ぶ可能性が生じた」ことなどが中止の理由という。

 直接抗議を受けたわけではないが、混乱を避けるために中止を決めた映画館もある。

 映画「靖国」は、長年日本で生活する中国人の李纓(りいん)監督が、10年間にわたって靖国神社の姿を様々な角度から描いた作品だ。先月の香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなど海外でも注目を集めている。

 軍服姿で参拝する老人や、合祀(ごうし)取り下げを訴える台湾人の遺族、境内で開かれた戦後60周年の記念式典に青年が乱入する場面などが取り上げられている。

 靖国神社のご神体が、神剣と神鏡であることから、日本人の心の拠(よ)り所として日本刀にも焦点を当てている。

 日本兵が日本刀で中国人を斬首(ざんしゅ)しようとしている写真なども映し出される。日本の研究者が中国側が宣伝用に準備した「ニセ写真」と指摘しているものだ。

 その映画に、公的な助成金が出ていることについて、自民党の稲田朋美衆院議員ら一部の国会議員が疑問を提示している。

 しかし、公的助成が妥当か否かの問題と、映画の上映とは、全く別問題である。

 稲田議員も、「私たちの行動が表現の自由に対する制限でないことを明らかにするためにも、上映を中止していただきたくない」としている。

 かつて、ジャーナリストの櫻井よしこさんの講演が、「慰安婦」についての発言を問題視する団体の要求で中止になった。

 こうした言論や表現の自由への封殺を繰り返してはならない。

 来月以降には、北海道から沖縄まで全国13の映画館で、この映画の上映が予定されている。

 映画館側は、不測の事態が起きぬように、警察とも緊密に連絡をとって対処してもらいたい。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080401-OYT1T00816.htm