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2008年04月02日(水) 00時00分

クローン牛 解禁を諮問読売新聞

厚労省 食品安全委、最終評価へ

 体細胞クローン技術で作った牛や豚とその子孫について、厚生労働省は1日、食品としての健康影響評価を内閣府の食品安全委員会に諮問した。

 国内外の研究や調査で安全性に問題がないとの結果が出ていることを受け、最終評価を得るのが目的で、食品安全委が安全と判断すれば市場への流通に道が開けることになる。

 しかし、厚労省によると、体細胞クローン食品は、各国が出荷を自粛するなどしているため輸入品も含めて流通していない。消費者の不安感も根強いだけに、論議を呼びそうだ。

 体細胞クローン食品を巡っては、米食品医薬品局(FDA)が今年1月、牛や豚、ヤギなどのクローン食品について「肉、乳製品とも従来の家畜と変わりがない」とする最終評価を公表し、安全宣言を出した。欧州食品安全機関(EFSA)も同月、同様の意見書案を公表した。

 国内でも、2003年に厚労省研究班が体細胞クローン牛について「安全性が損なわれることは考えがたい」とする報告書を提出。農水省所管の独立行政法人「農業・食品産業技術総合研究機構」の畜産草地研究所も先月、クローン牛や豚、その子孫について問題ないとの報告書をまとめた。

 こうしたことから、厚労省は「安全性を最終確認する機が熟した」として諮問に踏み切った。ただ、市場の混乱を避けるためとして、米国では安全宣言が出た後も出荷を自粛中だ。国内でも農水省が、体細胞クローン牛を誕生させた各研究機関に対し、出荷自粛を要請している。

 食品安全委は3日以降、審議に入り、国民からの意見も募集したうえで、厚労相あてに評価結果を通知する。過去の審議期間は数か月から数年とばらつきがある。食品安全委が最終評価を出すまでの間、他国が自粛を解除する可能性もあるが、厚労省は「安全性に問題ないとする科学的知見が出ているのに、輸入制限はできない」として輸入禁止などの措置は取らないという。農水省は「食品安全委の評価結果を踏まえ、今後の対応を協議する方針」としている。

 体細胞クローン技術 核を抜き取った未受精卵に成体の体細胞の核を入れ、代理母の子宮に移すことで、その成体とほぼ同じ性質の個体を誕生させる技術。高品質の肉や乳量の多い牛などを大量生産できると期待されている。

[解説]商業化への道は不透明

 体細胞クローン技術で生まれた家畜の肉の流通が現実味を帯びてきた。国内では昨年9月末までに535頭の牛がこの技術で誕生している。日本の黒毛和種のように、肉の値段がほかの牛の倍近くになる牛は海外にない。クローンで高級牛を増やしたいという畜産研究者の思いは強い。

 だが、農水省がクローン牛の出荷自粛を求めていたのは、BSE(牛海綿状脳症)問題で見られた消費者の食の安全への関心を考慮したからだった。その関心は、中国製冷凍ギョーザによる中毒事件などを受け、さらに高まっている。

 クローン肉などを食品安全委が安全だと認めた場合、厚労省は「通常の食肉と差がない以上、(体細胞クローン技術という)食品表示を新たに作るのは難しい」と、クローン表示の義務化には消極的だが、消費者がそれで納得するだろうか。食品が科学的に安全かどうかと、消費者が受け入れるかは別問題だ。遺伝子組み換え食品は消費者から拒否反応を示され、市場からほとんど姿を消した。クローン家畜の商業化が成功するかはまだわからない。(科学部 高田真之)

http://www.yomiuri.co.jp/gourmet/news/20080402gr01.htm