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2008年03月29日(土) 15時28分

金ぴか霊柩車イヤ 火葬場締め出し150カ所朝日新聞

 金箔(きんぱく)で豪華な装飾を施された車に乗せられて、人生最後の旅へ——。そんな光景が街中から姿を消しつつある。周辺住民の反対で「宮型」と呼ばれる霊柩(れいきゅう)車の乗り入れを禁じる火葬場が増えていることに加え、人々の間でも「派手な葬送」を敬遠する傾向が強まっているためだ。葬祭業者などは「日本の伝統文化」と再考を求めるが、旗色は悪い。

豪華な飾りが特徴の宮型霊柩車=宇都宮市内で

 宇都宮市は1月、来年3月から稼働する新しい公的な火葬場について宮型霊柩車の乗り入れ禁止を決め、葬祭業者53社に伝えた。

 新火葬場の稼働は地元の反対から予定より2年遅れており、「住民の総意」(地元の自治会長)という乗り入れ拒否を、市も受け入れざるをえなかった。建設中の火葬場近くの主婦(67)は「自然と葬式が思い浮かぶ。毎日見るのは気分が良いものではない」と話す。

 昨年6月から稼働した千葉県印西市の火葬場も宮型を禁止した。88年に建設地を決めて以来、20年近く地元との協議を重ねた結果だ。担当者は「地元に『迷惑施設』の建設を理解してもらったことを踏まえて判断した」。

 全国霊柩自動車協会(東京)加盟の葬祭業者(約1500社)が所有している宮型は約1500台。ピークだった98年の約2100台が徐々に減ってきた。

 宮型の火葬場への出入り禁止は90年ごろから目立ち始め、同協会によるとこれまでに少なくとも24都府県の約150カ所に上る。古い火葬場を移転したり建て替えたりする際、周辺住民の反対を受ける例が増え、話し合いの中で条件としてのむことが多いという。

 こうした地区ではやむを得ず、装飾の無い洋型やバス型、バン型の霊柩車を使ってもらうことになる。だが近年は、火葬場への出入りの可否とかかわりなく、宮型を希望する遺族が減っているという。地域差はあるが、宇都宮市のある業者は「豪華な葬儀を望む高齢者を中心に全体の2割程度では」と話す。

 国際日本文化研究センター(京都市)の井上章一教授は「寿命が延びた現代、人は日常生活から死を隠すことに成功した。火葬場への反対のように死を嫌がる気持ちが強まり、霊柩車も外へのアピールが少ないものが主流になってきた」と解説する。

 こうした流れに対し、全国霊柩自動車協会の柴山喜郎専務理事は「利用が減ったとはいえ、宮型の利用を望む人は今も多い。乗り入れ禁止で選択肢をなくしてしまうのが良いことなのか」と不満を示す。同協会は宇都宮市に、見直しを求める要望書を出すことも検討中という。

 宮型は元々、輿(こし)に遺体を乗せて担いで歩いたのを起源に、1910年代に誕生したとされる。神奈川県厚木市の霊柩車メーカー「ジェイ・エフ・シー」の今村勉社長は「宮型は日本で生まれた伝統の葬礼文化。『亡くなった人を豪華に荘厳に送りたい』という遺族の気持ちも理解してほしい」と訴えている。 アサヒ・コムトップへ

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