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2008年03月29日(土) 16時49分

【記者が読む】無差別殺人 殺意の連鎖断ち切るサポートを産経新聞

 今月、茨城と岡山で理不尽な惨劇が続いた。茨城県土浦市では通行人が、文化包丁とサバイバルナイフを持った24歳の無職男に次々に襲われ、8人が死傷した。JR岡山駅では男性が大阪の18歳の少年にホームから突き落とされ、電車にはねられ死亡した。

 何の落ち度もないふつうの市民が、たまたま通りかかった、たまたまホームの先頭にいたというだけで命を奪われたのである。

 「誰でもよかった」

 2人の若者の供述を聞いてあらためて戦慄(せんりつ)を覚える。何が彼らを無差別殺人に走らせたのだろうか−。

 2つの事件の動機については現在捜査中だが、茨城の24歳の男は「複数の人間を殺せば死刑になると思った」と供述しているという。男は6年前、就職が決まらないまま高校を卒業。家に引きこもることが多く、アルバイトを転転とする一方、格闘技系ゲームにはまり、勝っても負けても「キレる」ことが多かったという。

 今年1月、目標の貯金がたまった」といってコンビニを辞めてナイフなどを購入。通り魔事件の直前には「もっと犠牲者が増える」という予告メールを残すと同時に警察を挑発していた。被害者首を狙うなど一連の犯行には冷徹な計画性に加え、バーチャルの復讐(ふくしゅう)劇を現実に実行したゲーム感覚のようなものも感じさせる。

 一方の18歳の少年。高校時代の成績は優秀で大学進学を希望していたが、家庭の経済的理由で断念。それでも働いて貯金をして大学をめざすという目標を持っていたようで、毎日就職先を探しながら家族とメールをしていたという。

 犯行の日は自宅から果物ナイフを持ち出して岡山に向かい、「誰かを刺そう」と考えながらも、ナイフを使うのを最後までためらっていた。少年は「人を殺せば刑務所にいけると思った」と供述する一方、被害者や遺族への償いの気持ちも話し始めており、衝動的で短絡すぎた犯行だった。

                   ◇

 無差別殺人は連鎖的に発生する、岡山の事件は茨城の事件が引き金になったという見方もあるが、ここではふたつの凶行を直接関連づけることは性急だろう。

 たしかに、過去の通り魔事件を振り返っても、「前の事件をヒントに思いついた、自分もやってみたかった」という模倣犯的な犯行は後を絶たない。ゲームや映画で人を殺すシーンに抗体を持たない若者を中心に今の社会は日常的に漠然とした殺意で満ちており、予備軍が事件を契機に秘めた殺意を爆発する可能性はおおいにある。

 が、彼らをおそれ、遠ざけ、警戒するだけでは問題の解決にはならない。彼らを育てた環境の病巣を知り、断ち切ることが必要だろう。

 18歳少年の動機が「進学断念」と聞いて、多くの読者からやりきれない思いが寄せられた。母親は「息子は逃げ場がなかった。自分が息子を追い込んだ」と話しているが、少年を追い込んだのははたして家族だけだろうか。大学進学が家族にとってどれだけの負担になったのかわからないが、少なくとも周辺や学校、自治体のサポートがあれば、殺人は避けられただろう。

 格差社会を否定するつもりはないが、格差が格差を生むのは現実である。大人が格差を受け入れても受け入れられない子供がいる以上、社会としては彼らのためのセーフティーネットが要るのではないだろうか。(社会部長・今村義明)

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