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2008年03月28日(金) 15時01分

<家族殺傷>「家中が血まみれ」 長女が助け求め隣家に毎日新聞

 古くからの印刷業の街が、惨劇の現場になった。東京都文京区小石川の製本業者宅で28日未明起きた6人殺傷事件は、一家の大黒柱だった江成征男社長(42)が無理心中を図った可能性が強まっている。職人肌と慕われていた社長に何があったのか。夜の静けさを破る救急車やパトカーのサイレンが鳴り響き、住民らは心配げに見つめた。

 「家が大変なんです。家中が血まみれです」。一家7人で唯一難を逃れた小学6年の長女(12)は、28日午前0時すぎ、顔面そう白で隣家の歯科医の男性(53)に助けを求めた。

 白いスエット姿で裸足。声が震えていた。、「お父さんが一人で先走ってしまった。110番して。救急車を呼んで」。

 駆けつけた警察官の目に飛び込んできたのは、血まみれで倒れている6人の姿だった。3階建て自宅の2階で、父三男さん(74)と母敏子さん(70)が胸から血を流して倒れていた。さらに3階では、妻伸子さん(37)、小学2年の長男(8)、幼稚園児の次男(4)が胸を刺されていた。江成社長は腹から血を流しながら、「おれがやった」と言葉を振り絞った。近くには血の付いた包丁が落ちていた。

 近所の男子大学生(19)は、救急車のサイレンの音を聞いて慌てて駆けつけた。「酸素マスクをした中年男性が運ばれ、体にはタオルのようなものがかけられていた。救急隊員が『どこに搬送すればいい』と大声で叫んでいた」。別の男子大学生(21)は、「短髪の男の子が上を向いて目をパチパチさせていた。あんな小さな子が大丈夫だろうかと心配になった」と話した。

 ◇仕事に厳しく職人肌…

 江成社長の会社の従業員男性(43)らによると、取引の3割を占める製本会社が今月末で埼玉県に移転することになり、江成社長も移転を検討していた。しかし、創業者の父三男さん(74)が「この地を離れるのは寂しい」と反対した。三男さんは15〜20年前に脳梗塞(こうそく)で体が不自由になっており、江成社長も「父の体のことがあるから、ここにいた方がいいという気持ちもある」と漏らしていた。取引量が減るかもしれないと悩み、「従業員の住宅手当などを削るかもしれない」と話していたという。

 同業者の男性(42)も「江成社長は『埼玉に移転しようと下見に行ったが、家賃の関係でうまくいかなかった』と話していた」と話す。また、自宅近くにマンションが建ち、「製本作業の音がうるさいと言われ、この場所に居づらい」と悩みを打ち明けていた。

 従業員男性も「そばに新しくマンションができるという話もあり、『荷物の搬出入が難しくなる』『騒音問題もある』などと困っていた」と話した。

 近所の人たちの話では、江成社長は父三男さんの跡を継ぎ、パンフレットやチラシを裁断したり折り込む製本業を営んでいた。現在の従業員は6人。毎朝8時ごろから、遅いときは夜9時ごろまで従業員が忙しそうに働き、仕事は順調そうに見えたという。

 近所の同業の男性(69)は「(江成社長は)まじめで仕事熱心なうえに性格は穏やか。取引先を大事にするので周囲からとても信頼されていた」という。仕事に厳しい職人肌で、従業員に慕われていた。

 妻伸子さんは江成社長との結婚前は地元の信用組合に勤めており、美人で気だてのいい女性として知られていた。近所で工務店を経営する男性(77)は「伸子さんが小学生の子供たちを連れて買い物に出かける姿をよく見かけた。幸せそうな家族だったのに」と話していた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080328-00000072-mai-soci