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2008年03月26日(水) 02時32分

<教科書検定>高校英語に「ウィキペディア」の地図、引用可毎日新聞

 文部科学省は25日、07年度の教科書検定結果を公表した。インターネット上の百科事典「ウィキペディア」から図を転載した高校生向け英語(リーディング)の教科書について「国境線が不正確」と検定意見をつけたが、図の使用自体は認めた。ウィキペディアはネット上で誰でも内容を編集でき、正確性は保証されていない。「安易な引用」との指摘もあり、文科省の判断が議論を呼びそうだ。

 検定申請したのは、大阪市の出版社「増進堂」。英語の長文に「死刑制度の世界地図」という図を付け「07年、ウィキペディア」と出典を記した。図では、死刑制度のある国や廃止した国などが色分けされている。

 検定意見を受け、出版社側は国境線を修正。文科省は「図の出典の明記を求め、不正確な個所には意見をつけている。特に(使用に)異論は出なかった」と説明している。

 ウィキペディアには、この図の基となる死刑制度の国別リストも掲載されているが「リストは不完全」などと書かれている。25日現在、ネット上の図は教科書転載の図とは異なり、韓国やラオスなどが「死刑のある国」から「事実上廃止された国」に変わった。編集部は「人権団体の資料と照らし合わせ、図は正しいと確認した。引用は問題ないと思うが、学校現場の反応を見て作り直すことも検討する」としている。

 教科書検定はおおむね4年ごとに行われ、07年度は高校高学年(主に3年)と小学校が対象だった。しかし小学校は新学習指導要領(11年度施行)に対応した検定が09年度に行われることから、申請なし。高校高学年で社会科は申請対象ではないため、今回は歴史認識にかかわる議論はなかった。

 今回は高校の47点が合格し、09年度から使用される。東京書籍(東京都北区)の生物2は「欠陥個所が多い」として2年連続不合格だった。【加藤隆寛】

 ◇引用になじまない

 メディア教育に詳しい藤川大祐・千葉大准教授の話 情報の裏をどう取ったのか明示しないと、安易に転載した印象を与える。ネット情報を切り張りした学生のリポート作成が社会問題化し、メディアリテラシー(批判的に読み解く能力)の養成が課題となっている中で、出版社は生徒への影響を考えるべきだ。何かを知る入り口にウィキペディアは便利だが「書き足し、変えていく」情報の特性から教科書などへの引用にはなじまない。

 ◇ウィキペディア

 インターネット上の百科事典で、誰でも情報を書き換えたり、項目を追加できるのが特徴。サイト側が示す「免責事項」には「情報に関し合法性、正確性、安全性等、いかなる保証もされません」とある。厚生労働省内のパソコンから、年金問題を追及している議員への批判的な記述など100件余(05年以降)の書き込みがあったことや、宮内庁職員が業務中に皇室に関する記載を削除していたことが発覚している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080326-00000013-mai-soci