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2008年03月21日(金) 08時02分

独白・警察庁長官銃撃事件 動機 一貫して「反オウム」産経新聞

 平成7年3月に起きた国松孝次元警察庁長官銃撃事件への関与を示唆する中村泰(ひろし)被告(77)=別の強盗殺人未遂事件で無期懲役、最高裁に上告中。過去には警察官射殺事件を起こしたこともある被告が、再び警察を、しかも組織のトップを狙ったという「動機」は何だったのか。独白は続く。

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 中村被告は昭和5年に東京で生まれ、幼少期は父親とともに中国・大連で過ごした。日中戦争真っただ中の15年に帰国し、茨城県で生活。「秀才」と呼ばれ、東大理科II類に進学した。

 転機は大学在学中の26年7月に訪れる。薬品会社からペニシリンや現金を盗んだとして執行猶予付きの有罪判決を受け、東大も中退。翌年には高級自動車盗で実刑判決を受け、服役する。

 大学時代は左翼運動に傾倒し、労働者革命を目指していた。学生組織にも所属し、警察隊との衝突を繰り返す中で、権力への不信感を徐々に芽生えさせていった。窃盗事件は革命実現のための資金稼ぎだったとされる。

 出所後も金庫破りなどを繰り返していた31年11月、東京・三鷹駅前にある銀行の金庫破りに失敗した後、路上に止めた車で仮眠。その際、職務質問してきた警察官を射殺し、無期懲役の判決を受けて再び服役する。この事件から20年後の51年に仮出所してからは、商品先物取引などで生計を立てながら新たな計画を練っていった。

 《明らかに自国の人間が誘拐の被害者になっているにもかかわらず、政府はその救出を試みることなく見殺しにしているとしか言いようのない態度であった。この無気力状態を打開するために何らかの実力行使に訴えなければならない》

 中村被告は北朝鮮による拉致事件が「疑惑」だった昭和60年代、こうした動機から「奪還へ向けての行動部隊」として民兵組織「特別義勇隊」を結成。当面の目標として「朝鮮総連幹部の誘拐」を掲げていたという。

 計画の実行に向け、被告はこのころから多数の拳銃や実弾を準備。しかし、最終的に人材確保の困難さなどから北朝鮮への行動は断念。次なる標的に選んだのがオウム真理教だった、という。

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 長官銃撃事件の捜査本部を抱える警視庁公安部は平成16年7月、殺人未遂容疑でオウム真理教の元幹部や元信者の警視庁元巡査長ら3人を逮捕した。「教団による組織的犯行」。これが公安部の見立てだった。

 「元幹部に似た男にコートを貸した」。こうした元巡査長の供述や最新技術を取り入れた微物鑑定の結果から逮捕に踏み切った。だが、取り調べに対する元巡査長の供述が二転三転したことや他の容疑者から決定的な供述が得られなかったことから、嫌疑不十分で不起訴処分となった。

 《私は一貫して反オウム。地下鉄サリン事件後に警察は教団施設へ家宅捜索を行ったが、まだまだ手ぬるいものだった。長官でも倒れればオウムへの捜査を徹底するだろうと思った》

 これが被告が語る長官銃撃事件の「動機」だ。

 《A、Bという互いに対峙(たいじ)する勢力(組織)があり、別個に組織CがBを敵視している。Cは小さな組織のためBと戦えないため、Bの一部であるかのように偽装してAに小規模な攻撃をする。AはBからの挑戦と受け止めBに反撃。こうして小さなCは強力なAをして敵対するBの壊滅に成功する。長官事件ではAが「日本警察」、Bは「オウム」、Cが「義勇隊」になる》

 「義勇隊」は中村被告を指すのだろう。

 警視庁が15年7月、三重県名張市の知人宅を家宅捜索した際、拳銃や実弾などとともに一編の詩が見つかっている。

 タイトルは「March30 1995」。長官銃撃事件の発生日だ。

 墨田の河畔 春浅く

 そぼ降る雨に濡れし朝

 静けさ常に変わらねど

 獲物を狙う影一つ

 満を持したる時ぞ今

 轟然火を吐く銃口に

 抗争久し 積年の

 敵の首領倒れたり

 この詩を目にした元捜査員は「警察や権力に対する長年の強い怨念(おんねん)を感じた」という。ただ、被告自身は「創作であって、日記やメモとは違う」と、あくまでも「反オウム」が動機であることを強調する。

                   ◇

 ■オウム犯行説

【主な根拠】

・教団信者の元巡査長が事件当日に着ていたコートに、 拳銃を発射した際にできる「溶融穴」。鑑定の結果、 「事件で使われた銃弾の火薬成分と矛盾しない」

・銃撃事件の1時間後、教団幹部が次のターゲットに警 視総監らの名前を挙げ教団への捜査をやめるよう脅迫

・事件発生直後、教団幹部に似た男が自転車で走り去る 姿が目撃される

【不審点】

・麻原彰晃元被告の元側近の麻原公判での証言。「銃撃 事件の後、ある幹部から『尊師はどう思っているか』 と尋ねられた。私は『先にやられたな』と尊師は言っ ていたと答えた。その意味については、警察の自作自 演だと解説した」

・松本サリン事件や地下鉄サリン事件など重大事件につ いては多くの幹部が認めているが、長官銃撃事件につ いては誰も認めていない

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