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2008年03月20日(木) 21時54分

地下鉄サリン発生13年 被害者補償まだ4割朝日新聞

 20日で「地下鉄サリン事件」の発生から丸13年。オウム真理教の「破産手続き」は26日、東京地裁で実質的な管財業務が終わる予定だ。しかし、被害者の救済はまだ終わっていない。被害者たちは議員立法で、国が残りの額を補償するよう求めているが、与野党間の調整の行方はなお不透明だ。こうしたなか、活動を続ける教団に対しては、いまも公安当局の監視が続いている。

献花する遺族の高橋シズヱさん=20日午前10時すぎ、東京都千代田区の東京メトロ霞ケ関駅で、代表撮影

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 オウム真理教は96年に破産宣告を受けた。裁判所が認定した、被害者が受け取るべき賠償額は計約38億円に上る。教団の不動産を売却するなどして、被害者に配当されてきたが、26日の手続きで最後となる4回目の配当金額が決められる。今回の配当の支払いは、11月までに終わる予定だ。

 破産管財人の阿部三郎弁護士によると、被害者らに支払われるのは合計で約15億円で、配当率は約4割にとどまり、23億円が未回収のまま残ってしまう。

 裁判所を舞台とした債権回収が終わった後は、弁護士らでつくる「オウム真理教犯罪被害者支援機構」が教団側からの賠償の受け皿となる。

 だが、地下鉄サリン事件被害者の会の代表世話人を務める高橋シズヱさん(61)は「テロ事件が起きたときに、私たちのように10年以上も苦しみ続けるようなことがないよう、直ちに被害回復がなされる制度ができてほしい」と語る。

 こうした声に、政治はどう対応するのか。国会では被害者の救済法案を議員立法で成立させる動きが本格化しているものの、与野党間の調整は難航しそうだ。

 民主党はすでに20億円を超える賠償金を国が肩代わりする法案を衆院に提出した。自民、公明の両党も18日に会合を開き、被害者に「見舞金」などとして給付する法案を与党で一本化し、6月初旬までに今国会に提出する方針を決めた。

 しかし、各党の考えには「オウム事件の被害者は、ほかの犯罪と比べてどこまで特別か」という点で大きな隔たりがある。

 救済の対象とする事件をめぐり、民主や公明は「坂本弁護士一家殺害事件」を含む、幅広い被害者を対象にしている一方、自民は「地下鉄サリン」と「松本サリン」の両事件に絞っている。さらに、自民案では「ほかの犯罪被害者とくらべて、給付額が大きい」として、二十数億円とされる残債と比べ、給付額も大幅に減額される見通しだ。

 自民の早川忠孝衆院議員は「他の犯罪とのバランスや国の厳しい財政を考えると仕方がない。後は、国民世論がどう考えるかだ」と話している。

 被害者の救済が終わらない一方、教団はいまも活動を続ける。「オウム真理教の時代と何が変わったのか、心の中まではわからない。不気味だ」。オウム真理教から改称したり、分派したりしてできた「アーレフ」や「ひかりの輪」の関連施設の周辺に住む人はこう漏らす。

 公安調査庁は、両団体を合わせた旧オウム真理教の信者数を昨年11月末で約1500人としている。信者に対する松本智津夫死刑囚の影響力や、団体の資金力は実態がつかみにくく、公安当局は「監視が必要」との見方を変えていない。

 ある警察幹部はひかりの輪について「信者一人一人の松本死刑囚への思い入れは今も強い」とみる。一方のアーレフについても、教団施設の立ち入り検査を重ねた公安当局の関係者は「松本死刑囚の写真を堂々と飾る信者が増えた」と話している。

 ■霞ケ関駅で献花

 地下鉄サリン事件で2人の職員が死亡した東京メトロ霞ケ関駅では20日午前8時から、駅員らが黙祷(もくとう)した。58人中、事件後に入社した駅員が約半数。上野昇駅長(54)は「風化させてはいけない、との思いを強くした」と話した。

 助役だった夫の一正さん(当時50)を亡くした高橋シズヱさんも午前10時すぎに花を携えて、駅を訪れた。 アサヒ・コムトップへ

http://www.asahi.com/national/update/0320/TKY200803200203.html