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2008年03月15日(土) 16時14分

ガレージに58億円 脱税の女「忘れていた」産経新聞

 ■捜査関係者あぜん「家事が起きたら…札束灰に」

 大阪の下町にある一見、なんの変哲もない2階建て民家のガレージから、現金約58億円の札束が見つかった大阪市生野区の姉妹による脱税事件。シャッター1枚隔てた向こうは、誰も見たことがないような札束の山だった。父親が一代で築いた巨額の資産を、相続税として納税したくないあまりの犯行だったが、その手口は驚くほど単純。捜査関係者も「火事でも起きたらどうするつもりだったのか」と、あっけにとられている。

 ■父親はやり手

 大阪市生野区のコリアンタウンから歩いて数分の下町に、李初枝容疑者(64)=相続税法違反で大阪地検特捜部が逮捕=の自宅が建っている。敷地面積約82平方メートルの2階建て住宅。玄関脇に、物置として使用されているガレージがある。

 「確かに高そうな着物を着てた。そやけどそんなにお金を持っていたとは」と近所の人は驚く。

 李容疑者の父親は一代でこの資産を築き上げたやり手の実業家だった。戦前は家内工業を営業していたが、昭和29年3月、貸金業や不動産賃貸業を営む会社を設立。これを足がかりに関係法人7社を次々に設立し代表者に就任した。貸金、不動産賃貸のほか旅館業や映画館の経営などにも乗りだし、大阪・ミナミの中心部でもテナントビルを所有して多額の賃料収入を稼ぎ出した。

 ■“資産隠し”

 「相続税が多額になりますよ」。会社の顧問税理士にそう指摘されたことにも影響されたらしい。李容疑者は父親が病気がちになった平成10年ごろから、父親・家族名義の銀行預金を解約し「資産隠し」を始めた。解約すると現金を段ボール箱などに詰めて自宅のガレージへ。札束の入った箱や袋は数十個に上った。

 一般的な脱税事件では、現金は床の下に隠したり、庭の木の近くに埋めたりと隠蔽(いんぺい)工作にきゅうきゅうとしている例が多い。

 しかし、あまりの巨額さに金銭感覚がマヒしたのか、李容疑者が現金を詰め込んだ段ボール箱や菓子箱、紙袋は、形も大きさもふぞろいのあり合わせのもの。どこにいくら保管しているかを記録した明細のようなものもなかった。保存状態は悪く、湿気でよれよれになった紙幣もあった。

 このため、捜査でも金額の計測には数日間を要したという。ある捜査関係者は「手口としては単純。しかし、書類や取引の形跡があまりにもないので、捜査は逆にやりづらい面もある」と話す。

 ■過去最高額

 父親は平成16年10月に死去し、遺産は75億円以上に上った。李容疑者を含め親族8人が法定相続人になったが、死後に父親の事業を継いだ李容疑者が中心になって相続人の遺産の分配を差配した。遺産のうち、税務署には約16億円しか申告せず、59億3000万円を隠し、28億6000万円を脱税した疑いが持たれている。

 脱税額28億円は、相続税としては、大阪府守口市の大手タクシー会社などで構成するトモエタクシーグループ元会長の24億9000万円を超えて過去最高。特捜部では今後、家宅捜索で押収した資料などの分析を進め、巨額脱税事件の実態解明を進める方針だ。

 「父親と一緒に仕事をしてきており、ガレージの金には、自分の金もある」などと、当初は脱税の犯意を否認していた李容疑者。逮捕後は「家に現金を保管していることを忘れ、申告も忘れていた」と話しているという。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080315-00000106-san-soci