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2008年03月13日(木) 00時00分

「信じてもらえず、不安と悔しさ」 痴漢でっち上げ事件朝日新聞

 大阪市の地下鉄で、示談金目当ての男女に痴漢にでっちあげられ、会社員の男性が大阪府迷惑防止条例違反容疑で誤って逮捕される事件があった。後に女が自首してきたため、男性の無実が晴れ、大学生の男は虚偽告訴容疑で府警に逮捕された。「自分の言っていることが信じてもらえず、悔しさと不安でたまらなかった」。誤認逮捕された国分和生(こくぶ・かずお)さん(58)=堺市北区=は13日、朝日新聞の取材に当時の心境を明かした。事件は、被害者の供述に立証を頼る痴漢事件の危うさを浮き彫りにした。

 「お尻触ったでしょ」

 2月1日午後8時半ごろ、大阪市営地下鉄御堂筋線の車内。ドア付近でポケットに手を入れて立っていた国分さんの肩に、隣に立っていた女性(31)がぶつかったと思うと、そう言い放った。

 否定すると女性はしゃがみ込んで泣き、離れたところで立っていた男が「触りましたよね」と近づいてきた。男は虚偽告訴容疑で逮捕された甲南大学法学部4回生、蒔田(まきた)文幸容疑者(24)。「はめられた」と思った。

 無実を訴えようと天王寺駅の事務室に自ら赴いたが、駆けつけた阿倍野署員は「白状したら許したる」。パトカーに乗せられ、手錠をかけられた。署でも否認したが、留置された。名前では呼ばれず、「留置者番号14番」として扱われた。「話を全く聞いてくれない。どうなるのか」と一睡も出来なかった。

 帰宅しない国分さんを待っていた次女(23)らは翌2日、捜索願を出していた。国分さんは逮捕から約22時間後の同日夕に釈放され、任意の捜査に切り替えられた。署に迎えに来た姉妹3人は、「悔しいわ」と目の前で泣く父を抱きしめた。

 勤務先の会社では「国分さんに限って痴漢なんてあり得ない」と勇気づけられ、「裁判するなら弁護士をつけてやる」と言ってくれた上司もいた。

 女性が示談金ほしさにうそをついたと自首したのは2月7日。1月末に大阪・ミナミの路上で声をかけられて交際するようになった蒔田容疑者に「金に困っているので協力してくれ」と持ちかけられたという。署に呼び出された国分さんに署員が「自分たちもだまされた」と頭を下げた。同署は今月11日、蒔田容疑者を逮捕した。

 国分さんは「信念を持って最高裁まで争うつもりだった」と言う一方、「留置が長引けば、精神的にどうなったかわからない」とも話す。府警に対して「うそを見抜くのは難しかったと思うが、今後同じことがないよう、ちゃんと話を聞くべきだ」と訴えた。

 「示談金目当てと知ってがくぜんとした。大学で法律を学んでいる者が、なんでこんなことをするのか」。蒔田容疑者への怒りは収まらない。

 同署は、被害者役の女性も虚偽告訴容疑で書類送検する方針。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200803130118.html