記事登録
2008年03月12日(水) 09時29分

「早く、本当に無実になりたい」法務相へ嘆願オーマイニュース

 3月5日に福岡地裁小倉支部で無罪判決が出た、いわゆる「引野口事件」の被告・片岸みつ子さんが11日、東京・霞が関の法務省を訪れ、代理人を通じて、検察の控訴断念を訴える嘆願書などを提出した。

 裁判で無罪となっても、検察は2週間以内に控訴することができる。今回の誓願は、この控訴断念を訴えるもの。代理人を通じてとはいえ、控訴断念の嘆願のために、法務省刑事局長との面会が実現するのは異例という。

 事件は2004年3月24日、北九州市で1人暮らしだった男性宅が全焼し、焼け跡から男性の刺殺体が見つかった事件。アルコール中毒だった男性に代わって金銭管理などをしていた実の妹の片岸みつ子さんに殺人・非現住建造物等放火の疑いがかけられ、片岸さんは威力業務妨害と窃盗という別件逮捕で身柄を拘束された。

 しかし、自供が得られなかったため、福岡県警は留置所や拘置所で片岸さんと同房だった女性から、片岸さんが房内で犯行を告白したとする供述を得て調書を作成。その供述を立証の柱として、片岸さんを殺人・放火の罪で逮捕・起訴した。

 この間、やはり任意の取り調べを受けた片岸さんの夫が自殺した。片岸さんによると、自殺の件を聞き泣き出した片岸さんに対して、取調官が「嘘泣き」などの発言をして、さらに自供を迫るなどの取り調べがあったという。

 裁判では、同房女性の証言に証拠能力があるのかが争われたが、5日の判決は証拠能力を否定し、殺人・放火に関する片岸さんの無罪を決定(威力業務妨害と窃盗に関しては執行猶予付きの有罪)。併せて、意図的に片岸さんと女性を同房にするなどした警察の捜査手法を強く批判した。

 ただ、検察はいまも控訴の意向を明らかにしていない。このため、身柄を解放された片岸さんや支援者らは、判決から連日、控訴断念を訴える活動を地元や東京で続けている。

 この日は、片岸さんに代わって支援グループの大庭福公代表ら2人が大野恒太郎・法務省刑事局長と面会した。片岸さんと息子の和彦さんは待合室で待機した。大野局長には、嘆願書と片岸さんが書いた鳩山法相宛の手紙、引野口事件について詳報した雑誌『冤罪File』の3点を手渡した。大野局長からは、法相と検察庁に伝える旨の回答があったという。

 法相宛の手紙で、違法な取り調べや、3年9か月に及ぶ長期勾留、現在の不安な状況について便せん4枚に綴ったという片岸さんは、面会後、記者団の取材に対し、

 「無罪判決が下ったというのに、いまも不安な毎日を過ごしている。1日も早く、本当に無罪になりたい。捜査において、私は犯人視され、ひどい罵倒もされ、同房者の虚偽証言で訴えられ、本当に悔しい思いをした。こうした状況について(法相には)考えていただけると信じている」

と小声で、絞り出すように話した。

 付き添った息子の和彦さんは、

 「母は、ただ(みつ子さんの兄の)言いつけどおりにお金をおろしただけなのに逮捕され、自白の強要を受けた。警察が同房者から証言を取るというのは、代用監獄制度を悪用し続けた最たる例。法務省には、取り調べの可視化をきちんと制度化してほしい」

としたうえで、

 「私たちは、無実になれば裁判は終わると思っていた。ところが、検察に2週間の控訴期限があると知った。検察には1時間でも30分でも早く控訴を断念し、私たちを解放してほしい。私たちは(殺された男性の)遺族なのだから、福岡県警には早く真犯人を見つけてほしい」

と訴えた。

(記者:軸丸 靖子)

【関連記事】
軸丸 靖子さんの他の記事を読む
「やっていないのに犯罪者」の恐怖知って (関連記事)
鳩山法務大臣へ、一日も早く平穏な暮らしを (関連動画)
ニュース特集:死刑の是非を考える
【関連キーワード】
裁判
無実

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080312-00000000-omn-soci