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2008年03月10日(月) 12時35分

フィルタリングはどうあるべき? 〜モバイル社会シンポジウム2008オーマイニュース

 18歳未満の青少年に対して、インターネットの「有害情報」に触れさせないための、自民党案の原案が明らかになったとの報道があった。出会い系サイトや自殺系サイトに絡んだ事件をはじめ、ネットの誹謗中傷や「学校裏サイト」でのいじめ、「闇の職安」に関連した事件が発生していることを受けて、フィルタリングの議論が噴出している。

 毎日新聞などによると、法案は「有害情報」を、

(1)性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼすもの
(2)残虐性を著しく助長するもの
(3)犯罪を著しく誘発するもの
(4)薬物乱用など健康を害す行為を著しく誘発するもの
(5)特定の青少年へのいじめに関する情報で著しく心理的外傷を与える恐れがあるもの
(6)家出した青少年に非行などを著しく誘発するもの

——と定めている。

 具体的基準の作成は、内閣府に設置する「青少年健全育成推進委員会」に委ね、情報を「選別」する。「有害情報」が書き込まれた場合は、サイトの管理者に 18歳以上の会員制にするよう義務付けるという厳しいものだ。また接続プロバイダーにも管理者に会員制化を促すよう求める。インターネットカフェについても、18歳未満の客に対してフィルタリングソフト付き端末を利用させるよう義務づけるというもの。

 こうしたフィルタリング議論は、総務省や警察庁で長年にわたって行われてきた。また、文科省も学校裏サイトへの対策に乗り出す手段としてフィルタリングの導入が選択肢の1つとして考えてきている。東京都等でも努力義務規定ながらも条例によって規定している。奈良県では、18歳未満の子どもに有害情報にアクセスすることや、ネットやメールで他人を中傷することを禁止している。違反すると補導の対象となる。現在、議論が再燃してきている。

◆どのようなフィルタリングがあるべきか

 そんな中で、明治記念館(東京都港区)で開かれた「モバイル社会シンポジウム2008」(エヌ・ティー・ティー・ドコモ、モバイル社会研究所主催)でも、青少年へのフィルタリングがテーマとして取り上げられた。

 「フィルタリングを求める社会とゾーニングの未来」と題したセッションでは、『ウェブ炎上』(ちくま新書)の著者で、批評家、ブロガーの荻上キチ氏と、ネット教育アナリスト・尾花紀子氏、日本技芸リサーチャーの濱野智史氏が鼎談した。

 まず、荻上氏が、どのような基準が正しいのか、といった規範を求めるのが困難になったことなどがウェブの特徴となっている中で、出会い系サイト関連事件やワンクリック詐欺では被害者として子どもが注目されると同時に、誹謗中傷やネットいじめなどでは加害者として子どもが焦点にあたったことが、フィルタリングを要求する背景にある旨を述べた後で、

 「情報を区別・配慮するゾーニングの1つがフィルタリング。ただし、情報は遮断することはできるが、コミュニケーションを排除することはできない」

 などと話し、どのようなフィルタリングがあるべきか、といったガイドラインについて3氏が議論した。

 浜野氏は、最終的には、モバゲータウンが実施している「18歳未満のミニメールは、ユーザーの年齢前後2歳までの送受信のみに制限」というように、あらかじめユーザーをプロファイリングをして、一定のユーザーとのコミュニケーションを遮断する「プロファイリング型」や、アクセスログを保護者らに提示、ユーザーの自主規制に任せる「モニタリング型」とになるのではないか、と推論していた。

 尾花氏は、学校現場での講演活動等などを通して、子どもたちからトラブルなどの情報を聞いているといい、

 「ネット、ケータイは子育てを論じる際に便利なツール。つまらないフィルタリングなら要らない。親は電話会社や事業者に依存してはならない」

 と述べ、目の前の現状だけではなく、長期的な視野を持った政策を考えなければいけない、と発言した。

◆ドイツでは法による規制が中心

 また、「青少年とメディア〜日本とドイツのケータイとインターネットに関する取り組み」のセッションでは、安部哲夫・獨協大学法学部教授は、ドイツでのネット規制について説明した。

 それによると、ドイツではボン基本法(憲法)で「表現の自由は、青少年保護等を理由に制限される」とあり、それを受けて、青少年有害図書規制法やマルチメディア法があり、さらに、インターネット時代を反映して、両法を統合・包括する形で新青少年保護法があるという。その法律によると、14歳未満の児童と、14歳から18歳の青少年に区別し、環境調整を行っている。

 インターネットの情報は「テレメディア」に分類され、可能な限り自主規制を尊重するものの、連邦青少年有害審査会が有害指定をする権限を持っている。その際は、州の青少年メディア保護委員会の意見を聞くことにしており、「あくまでも、自主規制をバックアップするもの」として存在している。

 日本では自主規制や民間のボランティア活動等が中心だが、ドイツでは憲法や法律、州際協定によって「法による規制」が中心だ。ちなみに、 2006年に州の委員会が有害指定コンテンツとして把握したものは、児童ポルノ28%、一般的なポルノ16%、極右暴力表現12%、その他の青少年有害内容21%だった。

 また、山田能氏(マルチメディア振興センターFFMCプロジェクト企画部)は、学校現場等での取り組みを紹介。「ドイツでは、『パソコンを使わない学校に未来はない。メディアリテラシー教育が、一番のインターネットトラブルからの保護になる』と言われている」といった言葉を紹介した。

 「子どもは理由を説明すれば理解します。発信者の意図を考える、受信者にどのように受け止められるのかを考える、行為の結果がどうなるのかを考える。そうしたことが子どもたちのリテラシー教育が必要です」

 と話した。

(記者:渋井 哲也)

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