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2008年03月07日(金) 00時00分

⑧だまされても…夢を世界に読売新聞

謎の外国人にだまし取られた「パッタポッタモン太」

 うぐっ、だまされた……練馬区の制作会社長・木村健吾さん(51)は、パソコンの前でうなだれた。だまし取られたのは、新作の子供向けアニメ52話。仏アヌシーの国際見本市で出会った「ハサーニ」は作品を渡した途端、音信不通に。

 中東の子供たちのほころぶ顔を、なんど夢想したことか。昨年6月の見本市。イラン国営放送の関係者と名乗る男は、練馬アニメーション協議会のブースに立ち止まり、『パッタポッタモン太』のモニターを食い入るように見つめた。都会から離島に引っ越したサルの3兄弟が、携帯もゲームもない田舎暮らしを楽しみ、自然のすばらしさを知る物語だ。

 「わが国では暴力シーンがあると放送できない。でも、この作品は違う。ぜひテヘランの子供たちに見せたい」。ハサーニは目を輝かせ、訴えるように話した。帰国後はメールで連絡を取り合い、ついに待望の知らせが。「国営放送のえらい人が見たいと言っている」

 木村さんは舞い上がる。国際郵便を出しに走り、返信をいつかいつかと待ちわびる日々。されど、いつまでたってもなしのつぶて。ああ。

 お金はもらっていない。きっと海賊版が出回ることだろう。闇ルートに流れると思うと、3兄弟がふびんだ。うかつさを悔い、自分を責め、へこんだ。

 でも、捨てる神あれば、拾う神あり。「われわれと世界市場に乗り込みましょう」。大きな商談が舞い込んだのは、2か月後のことだった。練馬のスタジオで、米国の映画制作会社会長とがっちり握手を交わした。この会社が代理店となり、各国のテレビ局に売り込む契約だ。会長は作品を「ワンダフル」と絶賛。先月、ベルギーでの放送が決まった。ほかスペイン、イタリア、ブラジルで話が進んでいる。

 最近では、気持ちに余裕も。ハサーニの顔が浮かぶと、こう思う。「イランの子供たちも、喜んでくれてるかなあ」

 

■パッタポッタモン太■ 「東京キッズ」(練馬区)制作。1話15分の短編。主人公のサルの3兄弟は、モン太、モン次郎、モンドという名前。千葉や埼玉、新潟のテレビ局で2006年から07年にかけて放送された。原作者・高野台三は木村健吾社長のペンネーム。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/feature/tokyo231203958795871_02/news/20080311-OYT8T00164.htm